そしてようやく昼休み。「……しっかし、暇を持て余した神々がくせいの遊びうわさってこわい」「そ、そうですね。まさか昨日のことがこんなに広まってるとは……」「ホント、どこでだれが見てるかわかんねえな」 いつもの裏庭で、弁当を食べながら並んで会話する俺と琴音ちゃんであった。 まさか初音さんが琴音ちゃんチェックしてたとこまで見られてないとは思うが、定かではない。 噂の出所をたどると、どうやら諸悪の根源は新聞部の夏目亜里なつめありという人物らしいが、見られたのはこちらの落ち度だし八つ当たりはできん。 壁に耳あり、障子にメアリー。くわばらくわばら。「琴音ちゃんは、根掘り葉掘り聞かれなかった?」「え、あ、あの、聞かれましたけど、笑顔で適当に応対してたら、すぐに鎮静化しました」「けっこう図太いんだね」「だ、だって……」 そこで琴音ちゃんが照れたようにはにかみ。「それどころじゃないくらい、今、しあわせですもん……」 ぐはっ。 俺は吐血した。脳内で。 今のセリフといいしぐさといい、レギュレーション違反ですよ琴音ちゃんってばああもうかわいいなあぁぁぁぁ。 思わず抱きしめたくなるが、人の目をもっと気にしないとならない。我慢だ我慢。「あ、あとですね」「ん?」「クラスメイトから、嬉しいことも言ってもらえました。祐介くんとわたしがお似合いのふたりだって」「……へ?」「いつも楽しそうなわたしたちを見て、自分も彼氏が欲しい、って心から思ったって……」「……」 お似合い、ねえ。 いやさ、自分を必要以上に卑下するわけじゃないけど。 こんなにかわいい彼女が、量産型男子高校生の俺を好きでいてくれるって、夢じゃないのか、と。 そんなふうに思うことはあるんだよ。 ………… なんだかんだ言っても。 佳世に裏切られたことが、いまだに忘れられないのかな。ことあるごとにこんな考えが浮かんでしまう。「……? どうかしましたか、祐介くん?」「あ、い、いや。俺って、こんなにかわいい彼女がいて幸せ者だなあ、なんて思ってね」 ギュッ。 慌てた俺が思わずそう言ってしまったのを確認してから、琴音ちゃんが左腕に抱きついてくる。「……わたしだけがそう思ってるんじゃないのが、こんなに嬉しい……」 ──バカか、祐介おれは。 その言葉は俺を反省させるのにじゅうぶんすぎた。 反省してまーす、といっても大麻は持ってないからね。『おまえは白木に対して、ブレるんじゃないぞ』 ナポリたんにも言われたじゃん。 琴音ちゃんは裏切らない。疑うような真似はしちゃいけない。 そして琴音ちゃんを疑わせるような真似もしない。それがブレないってことだよ。 だから、思い切り今の幸せを堪能しよう、二人で。 ………… 最近波乱続きだったせいか、嵐の前の静けさにしか思えないのはなぜだろう。 気のせいだといいな。