さて、夢の世界から魔導竜ウリドラを連れてきたならば、僕には必ず守らなければいけない事がある。 それは、くああーと耳元で欠伸をする彼女を決して振り返らないことだ。魔導竜はなぜか就寝時に衣服を着ることを嫌がり、いくら言っても直らなかった。 しかし寝ぼけた彼女は背中から抱きついており、寝起きの癖なのか力を込めてくる。ぶるぶる震えを伝える様子は黒猫のときと同じだけれど、生身ではまったく違う状況になるのだと理解をして欲しいかな。「ぐううー、相変わらず目覚めが気持ちよすぎるのうー」 などと呟きながら、のしりと何か柔らかいものが頬に乗ってくる……けど、これは何ですか? ベッドを鳴らして起き上がると、その重さも離れてくれてホッとする。 遅れてエルフさんも目覚めると、可愛らしい欠伸を目の前で見せてくれて、これはこれで気恥ずかしい。真珠のような歯と、綺麗な舌を見せられると少しだけドキドキしてしまうのだ。「んー、早く着替えなさいウリドラ。これから映画館に私たちは行くのよ?」「そうじゃった! うむ、うむ、実に楽しみじゃ!」 子猫のときと同じ仕草でベッドから離れ、寝起きとは思えない明るい声を発してくる。もちろん僕はまだ目を閉じたままであり、声を返すことしか許されていないよ。「2人とも、今日はどんな服装にするんだい?」「そうね、映画にぴったりな服装と言えば……あら、何も思いつかないわ」「秋らしいシックな感じが良いじゃろう。館内であれば風も無いだろうし、過ごしやすい服にしよう」 そう言い、ウリドラは魔生誕なる技能を使う。 もちろん技能なんて使えるのは夢の世界だけだけれど、魔導竜ともなると理を覆らせるらしい。 とはいえ行っている事は洋服や小物造りくらいなので、たぶん可愛い範疇だと思う。 どうぞと声をかけられて、ようやく僕はベッドから身を起こす。 カーテンを開いた部屋は明るく、全面フローリング張りの1DKという間取りが広がる。広さとしては12畳くらいだと思う。 そこでスカートの裾を広げているのは、まるでファッションショーのようだね。 クリーム色をしたニットと、裾広がりをしたチェック模様のスカート。新品のような皮のブーツも秋らしい良い色をしている。少し古い表現かもしれないけれど、森ガールのような服装をマリアーベルは好みやすい。 対するウリドラはというと、意外にもビジネスでも通用しそうな落ち着いたジャケットと、刺繍の多い膝上までのスカートだ。小脇に抱えた鞄にも品がある。 ただし彼女の場合は胸などが大きく、少しばかり色気が強いかもしれない。もしも同じ職場にいたら皆がドギマギするだろうな。「えーと、良く似合っているね。じゃあ車の中で映画を選びながら移動をしようか。その……すごく可愛いです」 何か言葉が足りないのでは?という女性達からの瞳に負けて、僕は素直な感想を漏らす。 はーい、と2人から笑い混じりの返事をされて、日曜日の午後という時間は始まった。 エルフさんも魔導竜さんも可愛いなんて分かりきっているのに、どうして感想を求めてくるのだろう。などと僕は内心でボヤいた。