考えるだに無理な話だ。村長の顔を窺うかがうと荷馬車を持っているようなので、アイテムBOXから金貨を2枚取り出し、クロトン一家の金に追加をした。「この金貨を合わせれば、荷馬車の値段には十分だろ?」 いや相場より、かなり高いはずだ。黄金色の金貨を見せられて村長は渋々OKを出した。「あんたに金を借りても返す当てが無いぜ」「やはり、私がご奉仕を……」「いや、子供達の前でそういう話は止めてくれ。俺が悪者になるだろ。心配しなくて良いよ」 殴り込みをしたついでに、敵のアジトから何か金目の物をかっぱらおう。そうすりゃ、すぐに元が取れる。 それに荷馬車が無けりゃ引っ越しの際に、マジでどうしようも無いからな。 そろそろ夕方だ。急がないと街の門が閉まってしまう。 村長からボロい荷馬車を受けとると、引っ越しの準備をさせる事にした。しかし、こんな荷馬車に100万円以上とは、高い買い物だぜ。 だが、クロトンの女房とマリーも俺達に付いてくると言う。 女子供は危ないから待っていろと言っても、言うことを聞いてくれない。実際、主人のクロトンが死ねば、この一家は路頭に迷う。 この奥さんが身体を売るぐらいしか金を稼ぐ手立てが無くなるのだ。 居ても立ってもいられないのだろう――気持ちは解るが……。 それに、俺達が突入した際に、アネモネを一人にさせるよりは、仲間がいた方が良いかもしれないな。 やむを得ず、皆をボロい荷馬車に乗せて、アストランティアへ向けて出発した。 荷馬車の手綱は獣人の男が取っている――名前はニャニャスだ。「ニャニャス、奴等のアジトは解っているのか?」「ああ、北門から外れた所にある悪所の中だ。そこが金の受け渡し場所になっていた」 街道に繋がっているのは東西の門だ。北門と南門はあまり使わていない。「簡単には金を集められないと思ってるから、今日来るとは思うまい」 悪所ってのは吹き溜まりだな。まっとうに街の中を歩けないような連中が集う所だ。 普通なら脚を踏み入れれば、とてもヤバい事になる。だが逆にいえば、少々騒ぎを起こしても役人もやって来ないって事だ。 底辺と底辺が脚を引っ張り合う一画――人間の、さもしさが堆うずたかく積もった、まさに吹き溜まり。 彼の話では、敵は10人程のグループだと言う。