でも、その道を目指すためには足りないものが沢山ある。 知らない事が多すぎて、どれから手をつけて良いかも分からない。しかし数々の遺跡へと知識を求める旅をしたら、きっとあの青年も一緒に来てくれるという予感もある。 それは少しばかり楽しみ過ぎるかもしれない。 もうとっくに子供などではないけれど、甲斐甲斐しく世話をされるというのも最近は素直に楽しめている。それが女性の喜びなのだと耳にはするけれど、まさか理解する日が来るとは思わなかった。 しかし悩みがまったく無いわけではない。 その最たるものが今もこの地へ近づきつつある事を、彼女のみならず皆も知っている。 大きな不安と小さな恐怖。その感情は常に消えることなく、心の奥底にくすぶり続けているのをマリアーベルは自覚する。 などと、ぼんやり中庭を見つめるエルフは、そのような夢想をして過ごしていた。静と動に溢れた庭というのは、何も無い時間を豊かにしてくれるものだとエルフはもうひとつだけ知識を得た。 さて、薄紫色の瞳には知性が戻る。 きっかけは、まだ小さな赤ん坊が這って進んでいた光景によるものだ。大きな瞳で互いに見つめあい、それから小さな唇が「まぁま?」と呼んで来る。「ちがうわ。私がママになるのはまだ早いもの」 むにゃりと複雑そうに唇を歪め、それから小さな子を抱き上げる。どうやら相手も慣れているらしく、すぐにその子はしがみついてきた。 肩に両手を回し、しっかりと脚を絡みつけてくる。柔らかいしあったかいし、耳元で「まぁま」と呼ばれるとくすぐったい。「はいはい、あなたのお母さんはあっち。確か洋間に行くと言っていたわね」 ぽんぽんと背中を叩いてあげ、見た目よりずしりと重い身体を抱き支える。乳飲み子と呼ばれるだけあって甘い香りがし、小さな尻尾と額にある角が無ければ普通の子のようだ。 宝石のような瞳は、少しばかりお人形のように可愛らし過ぎるけれど。 廊下をしばらく歩くと、タイル張りの洋風の内装へと変わる。この屋敷は和洋折衷を基本としており、こうして互いの個性を融合することで趣を醸し出している。 料理をするための厨房と、いくつかのテーブル席が並んでいるのは、いずれ本当に食堂にしてしまう予定らしい。食材も調理する人手も足りていないというのに、何故かウリドラたちはそう企んでいるようだ。「まったく、下手な人間よりも商売っ気があるわね。欲しいと思えば幾らでも金銀財宝を奪えるでしょうに。えーと、ウリドラはどこかしら」 きょろきょろ見回すと、壁際で何かの作業をしている姿が目に入る。動きやすい服装を選んだのか食い込み気味のローライズジーンズ、それにスカジャンという組み合わせであり、黒髪を左右に結わいているのも若々しい。 あれで本当に人妻なのかと驚きつつ、エルフはそちらへ近寄って行く。「まったくどこの誰なのかしら。家作りへ夢中になって、赤ん坊を放置している母親は?」「うむ、放置はしておらぬからわしの事では無いな。この領域はシャーリーに守られておるからのう」