ぺろぺろと落ち葉を火とかげが舐めると、弱々しい炎が静かに燃え広がってゆく。 広い第二階層だけど、小道や敷地内に関しては落ち葉を掃いて歩きやすいようにしている。そうして山になった枯れ葉に火をつけると、この時期には嬉しい暖を取れた。「薫子さん、だいぶ扱いに慣れてきました?」「いえ、まだ全然です。この子ったらぜんぜん言うことを聞いてくれなくって、マリーちゃんの言っていたことがよく分かります」 そこをのしのしと歩いてくるのはリザードマンで、手には収穫したばかりの芋がある。爬虫類というのは寒いときの体温調整が苦手であり、何を言うでもなく僕らの焚火にどっかと座り、ひょいひょいと芋を放り込んでいく。手慣れているなぁと感心した。 慣れているなとさらに思うのは、旦那さんと違って物おじせずに「こんにちは」と挨拶をする薫子さんだ。手慣れた手つきで焚火をつんつんと棒で突いて火加減を調整して、もちろん逃げ出そうとした火とかげはその次にお尻を突かれる。 頬をわずかに赤く染めながら彼女の大きな瞳がこちらを向いた。「そっかぁ、北瀬さんとマリーちゃんはご結婚するんですね」「日取りまでは決めていませんけどね。課題もまだまだありますが、まずはご両親に挨拶をしたらと考えています」 落ち着いて答えると「そうですか」と彼女は小さく呟いた。 それから薫子さんは遠くに視線を向けて、桟橋を渡ってこちらに歩いてくるマリーと徹さんを眺めてから口を開く。「……お二人が落ち着いていて驚きました。私が結婚するときなんてすごく悩んで、親や友達とたくさん相談したのに」「僕も悩みましたよ。だってエルフ族と人間ですからね」「相談、たくさんしてください。私と徹さんもできることは何でも協力します。北瀬さんは大事な読書友達ですからね」 よいしょと火とかげを胸に抱えながら、あどけない顔だちに合わない大人っぽい笑みを浮かべてくる。それはやはり落ち着いた彼女らしい表情であり、僕の不安や憂いを少しだけ取り除いてくれるものだった。 バケツを手にしたマリーが戻ってくると、だんだん芋の焼ける甘い香りが辺りに漂い始める。 ひょいひょいとリザードマンが追加で芋を放り込んだのは、僕らの釣果が皆無だと気づいたからだろう。フスンと不満そうな溜息をされたけど、こればっかりは僕にどうしようも無いんだよ。精霊を使役する才能が無いようにね。 そのように焚火の煙がゆったりと立ち上るなか、バターをたくさん塗った素朴な美味しさを味わった。 途中で何体かリザードマンが合流して、芋が足りなくなってしまったのは僕らだけの秘密だ。