僕の戸惑いにようやく我に返ったらしく気づいたらしく、鏡越しに彼女は小首を傾げてきた。 両手の指で肩をきゅっと握り、そして口元だけ隠して僕を見つめてくる。いや、しかし、まさか…………! なるほど、れっきとした純度100%のお化け。 それがいま、僕の部屋にいるわけか。 お化けなんていない、そう考えていた人たちはどう思うだろう。まるでサンタクロースから「おはよう」と挨拶をされたような気分だ。 落ち着け、まずは深呼吸だカズヒホ。 どうしてシャーリーがここにいるのか考えろ。 ふと思い出したのは、夢の世界で眠りについた時のことだ。彼女の膝を枕に、僕は眠ったのだが……。「ひょっとして、僕が眠りにつく時にくっついて来たのかな?」 ためらいがちに、こくんと頷かれた。 ゆっくり振り返ると、そこには青空色の綺麗な瞳が待っており、ぱちっと瞬きをする様子はどこか小動物を思わせる。 そして何か悪いことをしたと感じたのか、彼女はみるみる眉尻を落としてしまう。「あ、いや、注意していなかった僕が悪いんだよ。ほら、それくらい君は安心できるからね」 日本と夢の世界を行き来できることは内緒だったのに、僕はシャーリーの前で無防備過ぎた。当たり前だけど僕らのことを言いふらさないだろうし、友人として遊び回った仲でもあるからね。 ほっと安堵の息を漏らすシャーリーを見て、僕は密かに決意する。よし分かった、今日は会社を休もう、と。 先ほどから身体が重いのは、恐らく彼女に取り憑かれているからだろう。違ったら嬉しいけど、たぶんそうだ。 もしそんな状態で会社にいけば、さらなる混沌が待っている……かもしれない。 なら仕方ないね。大量に余っている有給休暇という手札を、行使することにしようか。 その前に皆へ説明をしないといけないけど……あ、さっきの様子だとウリドラはたぶんこの事に気付いてたな。 タオルで顔を拭いてから、僕はリビングへ戻ることにした。