そして愚かな娘は口先だけの言葉なんかに騙されて、ザリーシュの指へと貴金属を近づけてゆく。薬指の第一関節へとはめられ、指輪はゆっくりと根元まで進んでくれる。「あたしさ、長いことあんたを見てたから分かるんだ。嘘つくときの目とか」「……ッ! 俺は嘘なんて……」 もう少しなんだ、あと少し騙されてくれ! これを指につけ、そして安全なところまで命がけで運んでくれるだけでいい。そうしたらダークエルフなんて娼館へ売りつけてやる。そう、貴重な指輪はたったの1つしか無いのだ。 同時に、ぎょろりとザリーシュの目は動く。 薬指へとはめられようとする指輪を、じっと見てしまう。「これは、逆じゃないか……こちら側はおまえがつけるべき指輪だ!」「えー、合ってるよー。というか昔のことで忘れちゃったの? ほら、覚えてるかなぁ、あたしを最初に騙した日のことを」 昔? 昔ってなんだ? そういえば……彼女と2人組で過ごした日のことをあまり思い出せない。ただ、この指輪を外したときから記憶は鮮明になり……。「というか元々、この指輪はあたしのだし。あんたの『指輪を外しても俺の愛は~』なんて言葉を信じたのが運の尽きだったみたい」 その瞳にぞっとした。 どろりと全身から脂汗が漏れ、しかしなぜ本能的にこれほど恐怖をするのかが分からない。 なんだなんだ、このダークエルフは何なんだ? そもそも、どうして2人で組むことになった?「大事なことだからもう一度教えてあげるね、ザリー。あんたはあたしの奴隷、そしてあたしはゴシュジンサマ」「俺が、奴隷……だって?」 まさか、と笑い飛ばそうとしたが身体は勝手にガタガタと震え始める。 この反応は、本能的に彼女の言葉は真実だと分かっているのだ。「でもさ、ニホンって所に行って、あたしは勉強になったよ。かっこいい男の子がいてね、優しくてふわふわしてるのに、大事なところは絶対に負けないの。ねえ、ザリーもそんな人になってくれたら嬉しいな」「や、だ……っ! いやだっ! やめろ、触るなっ!」「んっ、バタバタして可愛いっ。じゃあこれから一緒に頑張って、みんなに謝って、汗水流して真面目に働こうね」 ずぼり、と指輪がはめられた。 同時に己のなかから技能が消えてゆくような感覚を覚えてしまう。【お前は俺のもの】はいま変化をし、【あなたはあたしのもの】へと生まれ変わる。 いや、元の持ち主へ戻っただけか。 そうだ、そう……俺はこの技能を奪い、俺のものにするまでの間、イブを生かしておいたのだ。 彼女を殺しては技能は消えてしまう。 だから完全に俺のものにし、複数を操れるようになったとき、ようやく彼女を殺―――……。