なんだろう、このめまいにも似た違和感は……不意に襲ってきた感覚に身体がふらついてしまう。別に体調を崩しているわけでもないのに、まるで貧血でめまいを起こしたかのような感覚だった。 ただ、倒れるほど酷いものではなく、何か気持ちが良くなってふわふわと浮いているような感覚と同時に頭の中に何か電気が走っているかのような痺れるような感覚が続く。 もちろんその場から逃げ出したくなるような不快な感覚でもなくて。ううん、違和感はあるけれど、正直かなり気持ちいい。「……何、これ?」「どうしたの、志乃?」 目の前で急に私が立ち止まったためか、理恵が心配そうに声をかけてきた。「めまいかと思ったんだけど。あれ?うん、もう大丈夫みたい」 めまいというか軽く酔ったような感じというか、そんな感覚はほんの一瞬だったようで。今はもう何も感じなくなっていた。普段通り、ううん、なんだか新しく生まれ変わったみたいに晴れやかな気分というか、さっきのめまいが嘘のように頭がスッキリしていた。「本当に大丈夫?」「うん、全然平気。ちょっとふらついたけど、今は何ともないわ」「そう、それならいいんだけど」「大丈夫。心配しすぎよ」 気にするようなことのない、ほんの一瞬……たった一秒にも満たない出来事。 だけど、このときの私は、この一瞬の出来事が私という存在を大きく変えてしまっていたことにまったく気づいていなかった。 そして、この先ずっと……私は今までの私でなくなってしまったことに気づくことはない。だって、私自身が私が変わったことをまるで意識していないし、今までの私はどこにも存在しないのだから。 私は身体が浮き上がるような昂揚感を感じながら理恵の隣に並ぶ。 自動ドアをくぐる前には大して気にもしていなかった新たな命を根付かせている理恵のお腹を羨ましそうに興味津々の様子で見つめていた。 さっきまで、いずれ彼の子供を産むにしてもまだまだ妊娠なんて先の話で考える必要がないと思っていたはずなのに、理恵のように彼よりも大切な男性である大家さんの赤ちゃんを、一刻も早く妊娠したいと思っていることになんの疑問を感じないまま……。「こんにちは、志乃さん」「こんにちは、椎名ちゃん」 理恵の部屋に到着すると、理恵の一番下の妹の椎名ちゃんが私を迎えるように玄関に立っていた。 理恵の結婚式で会った時はストレートの長い髪の毛をそのまま背中まで伸ばしていたけど、今日はポニーテールにして真っ白な肌の首筋を見せつけるようにさらしている。さらに身体のラインを隠すつもりがまったくないどころか、逆に見せつけるような薄手の赤のTシャツは丈も短く、細くくびれたウエストを露出させていた。 デニム地のタイトなミニスカートは丈も短くヒザ上30cm以上あって少し動いただけでスカートがずり上がってお尻が見えてしまいそうだった。もちろんこんな短いミニスカートであれば、椅子に座ったり、階段を上ったりするだけで中身はほぼ確実に見えてしまう。 足はヒザ上までの赤のニーハイを履いていて、さらに真っ赤なガーターベルトでズレ落ちないよう固定されていた。 そして、一番のアクセントとなっているのが首に巻かれた真っ赤なチョーカー、飾りのないシンプルなデザインのチョーカーはまるで飼い犬の首輪のような印象を抱かせている。