「アネモネ、パンを焼いてくれ」「解った!」 彼女がパンを焼いているうちに、ちょっと食材を調達してみるか。 数日、アイテムBOXに入っていた肉や、インスタント食品を食べていたが、変わったものが食いたい。 せっかく、目の前の湖に魚がいるんだ。魚を釣ってみよう。 たしか以前に買った、釣りの道具がアイテムBOXにあったはずだ。 アネモネの魔法を使うと大量に獲れるのだが、水面を爆破するのは止めてくれと言われているしな。 アイテムBOXから釣りの道具を出すと、竿や毛鉤のセットをリリスが興味深そうに覗き込んでいる。「ケンイチ、釣り針の先についているものはなんじゃ? 魚釣りには、虫を使うと聞いたが?」「これは疑似餌だよ。魚が、この毛を虫だと勘違いをして食いつく」「賢者というのは、随分と悪辣じゃの」「そんなこと言われてもな」 前に疑似餌を使ったところは、流れのある場所だったが、こんな湖畔で釣れるかな? まぁ、物は試しだ。 湖面に向かって、疑似餌を投げる。安物のリールがキリリと音を立てて、糸を吐き出すと、ポチャンと波紋が出来た。 そのままリールを巻いていく――が反応なし。 再度、疑似餌を投げて引くと、強い手応え――当たりがきた。「おおっ! こんな所でも釣れたぞ?」 しかし、ここにいるマスはどこから来たんだろうな。 元々、川と繋がっていたんだろうか。いや、湖に流れ込むばかりじゃどんどん溜まるだろうし、ここから流れ出る川が、どこかにあるのかな? 上がってきたのは30cmほどのマス。「見事な魚じゃの!」「中々いいな、後2匹ぐらい釣れないだろうか?」 その後、3匹釣れたので、合計で4匹になった。 全部、3枚におろして塩コショウを振って、ちゃんちゃん焼きにしよう。 本当は鮭でやるもんだが、マスでもできるだろう。 まずは野菜を刻んで、タレを作ろう。タレは味噌と酒、砂糖と味醂だ。それに昆布だしを少々。 カセットコンロを2つ出して、鉄板にバターを引いてマスを並べて焼き、その回りに野菜を盛る。「アネモネ、少し魔法で加熱してくれ」 本当は蒸し焼きにするのだが、面倒だ。