とはいえ、本当ならリオはこの家の存在を伏ふせておきたかったはずだ。クレイアからロダニアへ移動する際にこの家を使わなかったことからもわかる。 理由は明白だ。仮に言い触らせば誰だれもが欲ほしがるだろう。石鹸はともかくとして、この家や空間魔術の魔道具は量産できるとは思えない。だから――、(出所は気になるけど、あまり探さぐるべきではないわね。教えてくれたとしても、口外するべきではない。訊くにしても口外する気がないことは伝えないと……) と、クリスティーナは考える。タオルを動かしていた手の動きを止めると、ボディソープの香りが鼻び腔こうをくすぐってきて――、「良い匂い、本当に……」 ほんのわずかに苦々しく口くち許もとを歪ゆがめながら、そう独ひとり言ごちた。この家まで背負って運んでもらった時にリオから嗅ぎ取った匂いと同じ香りがする。「何か仰いましたか、お姉様?」 コンディショナーを髪に馴染ませ、洗顔を開始しようとしていたフローラが尋ねた。「いいえ。何でもないわ。私はそろそろ身体も洗い終わりそうだから、貴方の背中を流してあげましょうか?」「え? いいんですか? あ、でも……」 パッと明るい顔になるフローラだったが、岩風呂を見て――、「せっかくだから、お姉様はお風呂に浸からせてもらったらどうでしょうか?」 と、クリスティーナに提案する。「いいわ。貴方が入れないのだから、私だけ入るのは悪いもの」「そんなことありませんよ。よかったら感想を教えてください。どんな感じなのかだけでも知りたいので」 フローラは期待を込めた眼差しで姉を見る。「……そう? なら、貴方が身体を洗い終えるまで、少しだけ入ってみようかしら?」「はい。ぜひそうしてください!」「じゃあ、お言葉に甘あまえるわ」