なんだかいつもと雰囲気が違うな、と僕は感じる まず車の助手席に座っているのはエルフさん……ではなく蜂蜜色の髪をしたシャーリーであり、その彼女から「なんですか?」と向けられる瞳は紫水晶色ではなく青空色だ。 ごめんね、なんでも無いんだよ。ただいつもと空気が違うなと思って。 さてその違いは何だろうと考えながら鍵を差し込む。視線を向けると、迎えるように彼女の瞳がこちらを向き、うっすらとえくぼを浮かばせた笑みを見せてくれるところだろうか。 それともしばらく見つめていると、ウキウキと身体を揺らし、僕の言葉を待つような仕草を見せてくれるところかな。 どこか慣れ親しんだ小鳥のような女性だと感じる。 明るい色の髪を撫でることさえ許してくれそうな気配があり、そういう意味でどこか距離が近いのだろうと思う。 艶のある唇は、さきほど魔導竜が軽いメイクをしてくれたらしい。わずかに編んだ髪も、人形のように整った眉も、どこか普段見る彼女とは違うような気がした。「そうか、背の高さが違うんだね。夢の世界なら僕の方が低いし、いまは生身だから浮いてもいない。だから年下のように感じるのかな」 そう僕なりの答えを出すと、やはりシャーリーは不思議そうに小首を傾げてくる。 青空色の瞳はしばらく考えるように頭上を見あげ、それから合点がいったように瞬きをする。 どう理解をしてくれたのか分からなかったけど、後部座席に乗り込んだ女性からその理由を伝えられた。「忘れるわけがあるまい。初めてこっちの北瀬を見たとき、おぬしもポヤーっと見惚れておったからのう。さしずめ、あのカズヒホが大人っぽい!などと阿呆なことを思ったのじゃろうな」 その言葉に、どっ!とシャーリーの身体は揺れる。 表情としては「しまった!」、そして唇は言い訳が出てこないようにぱくぱくと開閉を繰り返す。 なんともまあ、表情をくるくる変える慌ただしい元階層主だ。けれどその仕草を見ているだけで、なぜかこちらは愉快な気持ちになる。きっと魔導竜もそれが面白くて、わざと茶々を入れているのだろう。