俺は株の知識はあるが、実際に株に手を出した事は無い。 だから、知識が無いというアリアさんと変わらないだろう。 多分、ヒントはアリアさんが説明したというルールにあるはずだ。 俺が同じ立場なら、絶対に相手が気づかないよう注意しながら、自分が有利になる条件を出す。 それに、アリアさんが出したルールには引っかかる部分がある。 何故、資金が10万円なんだ? 株で勝負――それもアリアさんと雲母の勝負だ。 いくらなんでも資金が少なすぎる。 資金が多ければそれだけ戦略も広がるのに、何故わざわざ10万円にした? それに単純に株で増やしたお金で競うのではなく、株価の総額を金額のみ提示するという言い方も気になる。 わざわざ株価の総額で競うってのもそうだが、何故、金額のみを提示すると明言めいげんしている? 実際は金額以外の他の情報だって同じ画面に反映されるため、一緒に提示されるはずだ。 しかも彼女は、最後に他に縛りはないといった。 逆に言えば、それらは縛りだという事だ。 それらから考えられる状況――尚且なおかつ、株の知識が無いアリアさんが絶対勝てると思える戦略となると……。 …………そういうことか……。 俺の頭の中に一つの戦略が浮かんだ。 確かにこれなら、株の知識は関係ない。 そして、アリアさんが株価の総額を金額のみ提示と言った理由もわかった。 別にそれが重要だという事ではない。 そこまで細かく決めて他の事を縛らないという事で、彼女は自分の戦略を成り立たせるつもりだ。 普通にアリアさんが行おこなったのなら、罪にまで問われる方法。 だけど彼女はこの勝負において、そうならない様にしようとしている。 もしこの予想が当たってるとすれば――雲母に勝ち目はないだろう。「駄目だな……」「え……?」「頭を下げてでも、この勝負は降りるべきだ」 俺がそう言うと、雲母は俯きながら声を発した。「でも……私はこの勝負から逃げたくない……」「いや、逃げてるとかそんな事を気にする必要は無い。元々は向こうから無理矢理持ち掛けてきた勝負なんだ。わざわざ相手の土俵で戦ってやる必要はない」「それじゃあ駄目なの……」「何をそんなに拘るんだ? そんなにお金がほしいのか?」「………………うん」 雲母は俺の質問に首を縦に振った。 正直、雲母がお金に拘こだわって勝負をしようとしているなど、俺は思っていなかった。 だからそう聞いたのだが……まさか肯定されるとは……。