一人の男が王都ヴィンストンへと入った。 年に二回。この季節になると、男は必ずこの街を訪れる。 男は名をロスマンといった。 歳は40半ば。短い黒髪に少し後退した前髪、中肉中背の体格、少し皺のある目元と、気持ちの悪いほどに鋭い眼光をした、何処にでもいそうな風貌の中年である。 人は皆、彼を「一閃座」と呼ぶ。「ロスマン一閃座、お待ちしておりました」 彼を出迎えた男は、身長2メートルはあろうかという大男。「おや、お久しぶりですねガラム君。大剣はやめたのですか?」「ええ。ワケありまして」 第二騎士団所属騎士ガラム。彼は先の内乱の責任を取って副団長の座を降り、現在は平の団員として無償の労働を行いキャスタル王国に奉仕している。彼の処分がこれほどに軽くなった理由は、ひとえに彼の人徳によるものであった。 彼もまた、冬季一閃座戦へと出場する者の一人である。「なるほど。はてさて誰の入れ知恵か」「一人、面白い男がおりますよ」「おおこれはこれは、楽しみだ……」 にんまりと笑うロスマンの顔を見て、ガラムのその巨体に怖気が走った。 ロスマンは、もうかれこれ20年以上の間、一閃座の名を有したままである。彼の実力は誰もが知っていた。そして、過去に剣を交えたことのあるガラムは、誰よりも。「退屈しのぎになるでしょうかねぇ」 随分と楽しみな様子であった。 しかし、ガラムもまた存外に楽しみな様子であった。それは、このロスマン一閃座と当たるだろうあの男との死闘を想像してのものに相違ない。「今季は荒れるやもしれません」 ガラムの本心からの呟きに、ロスマンはくつくつと喉を鳴らして笑った。