こいつはオートマなので、Dレンジにして走り出した。 この前に作った橋を通り、サンタンカと反対方向へ湖畔を進む。 岸はずっと平らだし、水でしまっているので走りやすい。 この場所も何回かバイクで走ったりしているので、アクセルを踏み込んだ。 エンジンの唸りと共に、メーターの針は時速80kmに達した。「ななな! なんという速さじゃ!」 リリスが、車のスピードに目を回す。「すごーい!」「すげー! 俺たちの全力ぐらいか?」「そうだにゃ」 獣人たちの脚も凄いが、さすがに80kmで巡航はできない。 走らせても、エンジンや車体になんの問題もない。これなら、十分に使えるだろう。「こんな感じで、湖の水際を走って回ろうと思ってな」「ケンイチと一緒に冒険! たのしみ!」 アネモネが後ろの座席ではしゃいでいるが、なんのデータもない土地なので、何が出るか解らない。「アネモネ、魔物や見たこともない化け物が出るかもしれないんだぞ?」「ケンイチと一緒なら平気だもん」「まぁ、アネ嬢の言うとおりだな」「そうだにゃ」 いやまぁ、信頼してくれているのは嬉しいんだがなぁ……。 車の試走から戻ると、アキラが来ていた。「おお~っ! ラ○クルかよ!」 白い新しい車を見て、アキラが叫んだ。「中々いいだろ?」「100系か。70系の古いのも捨てがたいがなぁ……」「ここで故障すると、修理が難しいからな。そういうのを趣味で乗れない」「ケンイチの魔法で部品は作れないのか?」「作れるものもあるが――修理するなら、部品取りの車を出して共食い整備だな」 シャングリ・ラには、中古の車のパーツや社外品なども売っているので、簡単な修理ぐらいは可能かもしれない。 特に、ラ○クルは人気車――こういう車は、中古パーツや社外品も多い。 マイナーな車はパーツが出なくて苦労することになる。「アキラ、俺たちは湖の測量と領地の確認に出るから、明日からしばらく留守にするぞ」「オッケー! 何日ぐらいだ?」「外周が150~200kmぐらいだと思うので、10日~15日ぐらいで回れると思う……」「湖が予想以上に大きい可能性は?」「崖の上から見る分には、そんなに大外れしないと思うけどな」 アキラには、トラックやSUV車に使うバイオディーゼル燃料をたっぷりと渡してある。 俺がいなくても、仕事には差し支えがないだろう。「車より、測量とか平気なのか?」 アキラの心配ももっともだ。「まぁ、大丈夫だろう」 元世界の江戸時代でも、原始的な道具だけで立派な地図を作った偉人さんもいたんだ。 俺には、シャングリ・ラから出てくる、文明の利器がある。 準備は万端、明日の朝に出発することになった。