最初に、爵位の授与やら、褒賞の授与やらの堅苦しい会が数日にわたって行われた慰労会。 その肩苦しい感じのイベントが一通り終わったタイミングで、とうとう私たち学園勢が色々と準備していたイベントが行われる。 そう、学園勢が贈る初めての演劇! 配役を決めるのですら、ヘンリー殿下がやるのかやらないのかで難航したり、芝居なんてものは、貴族の子女の皆さんは初めての試みでうまくいかないこともあったけれど、皆の熱意でどうにかこの日を迎えることができた。「リョウ様! 私、緊張してきました……!」 劇で勝利の女神役、つまり私役を演じる騎士科の4年生、オルテちゃんが、そう言って、顔を青白くさせていた。 無理もない。思ったよりも大盛況だ。 学園の生徒やその保護者だけだろうと高をくくっていたのだけど、どう考えてもそれ以上の人数が劇のために学内にこしらえた特設会場に集まっている。 ぎゅうぎゅうと人が入っていて、立ち見席ですら満員だ。「大丈夫ですよ。今日の日のためにたくさん練習しましたし、オルテさんなら問題ありません」 私が、そう声をかけると、オルテさんは、ぎこちなく頷いた。「そ、そうですよね。アラン様もいてくださるし、それに、後半はヘンリー殿下も来てくださるし……!」 そう言って、オルテちゃんは、気持ちを落ち着かせるように何度か深呼吸をし始めた。可愛い。 オルテちゃんはもともとドッジボールで一緒に遊んだことのある生徒なので、前から知り合いではあったのだけど、今回の劇でたくさん話す機会があってなんだか妹分みたいな感じだ。「オルテ、そんなに緊張して大丈夫なのか?」 心配そうに、主役のヘンリー役を結局押し付けられたアランがオルテちゃんに話しかける。 既に衣装に着替えているアランは、王族っぽい服装に身を包んでいた。 なかなか似合ってる。「だ、大丈夫です! アラン様こそ、緊張してないのですか? 主役のヘンリー殿下役ですよ?」「別に。主役っていっても、出番はほとんどないし。一番難しい魔法の場面はヘンリー殿下本人がやるみたいだからな」 と言って、つまらなそうにあくびをした。 劇には出演しない私だってちょっと緊張しているのに、この落ち着きようだ。 アランめ、意外と肝が据わっておる。 しかしアルテちゃんは、落ち着いたアランを見て、冷静さを取り戻したようで、少し顔がほころんだ。 よし、今までこの日のためにみんなでお稽古したり舞台装置作ったり、衣装作ったり打ち合わせしてって頑張ってきた。 想像以上にたくさんの人が見に来てくれているのは確かに緊張するけれども、だからこそやりがいもある。 私達、演劇実行委員会は、円陣を組んで、本日の大舞台に向けて気持ちを一つにした。 すごい、なんか、これ、青春って感じがする! みんなで励ましあいながら、開演に備えて心の準備をし、問題なく開始時刻に幕を開くことができた。 開演前は、慣れない劇で緊張して青白い顔をしたりする子もいたけれど、いざ劇が始まれば今までの練習の成果を存分に発揮し、順調に進んでいく。 魔物に襲われる学園。 それに立ち向かう生徒達。 王都の人たちを魔物から守るヘンリー役のアラン。 稽古中に何度も見たわけだけど、そのたびにあの時の学園に魔物が降りてきたことを思い出す。 みんなで力を合わせて一つの危機を乗り越えて……。 あの時はただただ必死だったけれど、今思えばあれはあれで楽しさがあったような気がする。 それはまあ、乗り越えた今があるからそう思えるのだろうけれど。 みんなの頑張りを見守っていると、幕が下りた。 前半の舞台が終わって、すこし休憩をしてから後半に入る。 私は一息つこうと、出演者や裏方の生徒達を労いに回っていると、「リョウ様、大変です!」と慌ただしい声で呼ばれてそちらに振り返る。 衣装係の子だ。「まだヘンリー殿下がいらっしゃらないのです!」 え、マジで……!? 予定ではそろそろこちらに来てくれないと困る。 衣装を着替えてもらったり、打ち合わせをする時間を確保したかったから、早めにきてってお願いしておいたのに……。「……私、探してきます!」 そう言って、後ろを振り返って、アランの方に顔を向けた。 アランは私の視線に気づいて、こちらにきてくれた。「どうしたんだ?」「ヘンリー殿下が、まだ来ていらっしゃらなくて、私今から探してきます。アランは、もしもの時のために、ヘンリー殿下が使う予定の魔法を使えるように準備をしてもらいたいんですが、可能ですか?」 私がそういうと、アランは少し悩むようなそぶりをして、「わかった。多分、できると思う」と言って頷いた。「ありがとう! お願いします! 後半出番がない子も一緒にヘンリー殿下を探しに行ってもらっていいですか? あまり騒ぎにならないようにできる限りこっそりと探してもらいたいです」 そう言ってお願いして、学園勢によるヘンリー殿下大捜索作戦が開始された。 あいつ、ほんと、本番に限って一体どこに……。 まずは出店もたくさん並んでいる学園の校門前広場に向かった。 ここには私の商会の人がたくさんいる。私は商会の人に、ヘンリー殿下を見かけたら、すぐに報せてもらうように頼む。 でも、ヘンリー殿下のことだし、こんな人込みの多いところにはいかなそうだ。 あの人ってどこにいることが多いんだろう。カイン様ならわかるのかな? 私は全然仲良くないし、彼の行きそうな場所なんて全く思いつかない。 まさか、大好きな家畜に合うために王都の牧場になんかにはいってないよね? さすがにそこまで行かれてしまうと連れ戻すのに時間がかかる。