治癒士ギルドで資格を得た俺は、通常は治療院に向かい弟子入りするといった流れに逆らうことにした。
では、俺が向かった先は何処か?そう。治癒院ではなく、冒険者ギルドだった。
「それにしても治癒士ギルドと違い過ぎる。何なんだ? この剣呑な雰囲気は」
その雰囲気で余裕が全くない俺は呟きながら、ただ受付カウンターを目指して何も考えないように進んだ。
「すみません、冒険者登録したいんですが?」
何気なく話した相手は、この世界で初の、それも女性の獣人さんだった。
俺は感動していた。
しかしその感動を押し殺して、淡々と仕事モードで対応をすることにした。
ここで感動して態度を変えてしまえば、きっとテンプレ様が襲来する。
そうなったら俺は、死ぬ未来しか想像出来なかった。
今の俺にはゆっくりと話すことさえ、余裕が無さ過ぎて出来なかった。
「はい。冒険者ギルドへようこそ。こちらに名前と種族と年齢をご記入ください」
笑顔が素敵な獣人さんが渡してくれた羊皮紙には、殆どが治癒士ギルドと出身地がないこと以外は全て同じものだった。
これは荒くれ者が多いからなのか? そんな会話すら今の俺には出来なかった。
「それではこちらのカードに血か魔力をお願いします」
俺は渡されたカードに、すぐに魔力を流すと受付さんに渡した。
「はい。結構です。体術スキルがありますので、冒険者登録は出来ますね」
こうして俺は冒険者ギルドカードも受け取って冒険者にもなった。
その後にこのキュートなウサ耳の受付さんは、必死に冒険者ギルドの説明をしてくれた。
俺は余裕が無くてあまりちゃんと聞いていなかった。
攻撃スキルが無いと冒険者登録が出来ないことなど、登録してから知ったので意味がない情報なども多々有ったからだ。
ちなみに俺は、体術スキルがあったから登録が出来た。
その後、冒険者ギルドのランクについての説明があり、あまり興味が無かったのでほとんどを聞き流した。
重要なのは、依頼を達成するとその報酬の10%がギルドの運営の為に天引きされる。
それぐらいだった。
冒険者登録をした俺は当然ながら、最低ランクのHランクからのスタートとなった。
そのことに文句はなかった。
「依頼を失敗すると、罰金などがあるので、ご注意ください」
一番耳に残った言葉がそれだった。
俺は重要なことだけ頭にインプットしながら冒険者ギルドに来た本題へと話を移した。
「あの冒険者でも、依頼は出せますか?」
「ええ。出せますよ」
耳がヒョコヒョコっと動いて首を傾けた。
うん。可愛いけど、今はそんな余裕がありません。
「この下の階が訓練場になっているって言われてましたけど? 体術スキルを上げるための指導をきちんと出来る方はいらっしゃいますか?」
「ええ。もちろんおりますよ。冒険者の方でも職員の中におります。ただ訓練と言っても指導する時間に応じて料金が発生しますが大丈夫ですか?」
まぁそうですよね。ボランティアとかは流石に豪運も呼び寄せることが出来なかったか。そう思って聞いてみる。