それをレンコに教えることなど、損でしかないはずなのに。 まるで、知っていて当然の知識だというように、余裕の顔で語った。 更に恐ろしい事実は、相殺がセカンドの言った通りの技術だったとして、それ即ち、セカンドはレンコの完璧な不意討ちを予測する形で、インベントリから剣を取り出し、速度と方向を揃え、《桂馬剣術》をほぼ同時に発動したということ。 ――あまりにも、差があり過ぎる。 圧倒的と言うのも烏滸がましいほどの差だ。「……これしきで、イモ引くあたいじゃあないね」 震える足に力を入れて、レンコは起き上がる。 次元が違う。それを痛いほど理解させられたが、それでも、彼女は根性で立ち、意地で対峙する。「そう来なくっちゃな」 セカンドは、長剣をインベントリに仕舞いながら、心底嬉しそうに笑った。 ……それから数分間、レンコは一方的にしごかれた。 そして、身を以て学んだ。本物の喧嘩、即ち“なんでもあり”のルールは、ステータス差よりも、スキルの種類が豊富な方が有利だということを。 だが、幸いなことに、彼女はまだ気付いていない。タイトル戦出場者ならば気付いたかもしれない、身の毛もよだつ恐ろしい事実に。 それは、“なんでもあり”の対戦において、セカンドという男は、タイトル戦以上に実力を発揮するということ。タイトル戦のように単一のスキルに縛って対戦を行う場合と比べ、複数の種類のスキルを組み合わせられるこの対戦は、とれる戦術が何百倍も何千倍も幅広くなる。ゆえに、セカンドの持つ定跡『セブンシステム』は、より深く根を伸ばし大いに枝葉を広げるのだ。 レンコは、何もできなかった。何も。何一つ。《変身》して尚、セカンドに指一本触れられなかった。 もはやハメ殺しである。セカンドの繰り出す一手に対する「最善の切り返し」を知らなければ、ないし瞬時に見抜けなければ、そして卒なく行動に移せなければ、何もできないまま完封される運命に置かれるのだ。これは必然だった。「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」 HPは残り僅か、SPは枯渇し、息を荒げながら地面に倒れ伏すレンコ。 ポーションをかけようと近付いたセカンドへ、彼女は右手を突き出して拒否をする。直後、彼女の《変身》が解けた……。