その傍ら、彼はsevenを密かに観察し続ける。メヴィオンの中でも、現実でも。やはりどうしても気になるのだ。毎日一回はsevenを見なければ落ち着かないし、週に一回は佐藤を見なければ落ち着かない。いちごは間違いなくストーカーであった。 そんなある日のこと。 大学の講義が長引き、ログインのタイミングがいつもより15分ほどズレた時があった。 ……偶然か必然か。ログインした場所、いちごの目の前には、あのsevenがいた。 いちごは今まで、sevenと出くわさないようこまめに時間を調整し、無駄なくストーキングして、もはや“生きがい”となった観察を日々楽しむという手法をとっていた。だが、たった15分のズレが、sevenと対面するという事態を引き起こしてしまったのだ。 長年メヴィオンをプレイしてきたいちごだが、sevenと、すなわち佐藤七郎とゲーム内で顔を合わせるのはこれが初めて。当然、佐藤は『フランボワーズ一世』が中学の頃に一度だけ話したことのある後輩の女装子だとは知らない。そもそも鈴木いちごという名前も、女装子だとも知らないだろうし、顔を覚えているはずもない。 いちごは、あまりのハプニングに、暫しフリーズしてしまった。 すると、不運なことに、sevenの方から話しかけられてしまう。「あれ? なあ、こないだ一閃座戦で大剣振り回してなかった?」 その通りであった。 PvPでは不利と言われていた大剣に一つの可能性を見出していたいちごは、好んで使っていたのだ。 そして……それが自分だとsevenが覚えていてくれたことが、いちごにとっては感激以外の何ものでもなかった。 不意打ちに次ぐ不意打ち。ゆえに、つい――感極まった。「せやねん! センパイ、見とってくれたん!? うち嬉しいわ~っ! …………あっ」 瞬間、いちごは、自身がフランボワーズ一世であることを忘れてしまったのだ。 女装した状態の、女の子にしか見えない鈴木いちごが、その口調で喋るならまだしも。 ツルッパゲのオッサンの状態で、女言葉を口走ってしまった。 それも、初対面のはずの相手を、センパイ呼ばわり。 ……気味悪がられる。避けられる。馬鹿にされる。ばい菌扱いされる。よりによって、センパイに。 いちごの血の気が引いていく。 だが、sevenから出た言葉は、相も変わらず、予想の斜め上を行っていた。「よし、じゃあ一緒にダンジョン行くか」 何が「よし」なのか、何が「じゃあ」なのか、どうして「一緒にダンジョン行くか」となるのか、いちごにはワケがわからなかった。 ただ……不意に、一つだけ、心の奥底で理解した。 鈴木いちごは、男であるにもかかわらず、女として育てられ、男らしさに憧れながらも、決して女装は欠かさず、そうやって矛盾しながら生きてきた。 でも。 ……でもな、男とか、女とか、関係あらへん。 うちは、男でも、女でも、この人のことが、大好きなんやなぁ……。