「いえ、申し訳ありません! すこし考え事をしてしまいました。女神というのは、恐れ多すぎるかなと。本物の尊き方が聞かれたらあまり良い気分はしないのではと思いまして」 アリーシャ殿はごまかすようにそう言って笑っているが、本物の尊き方とは……。 思わずまじまじとアリーシャ殿をみている私の横に使用人が荷物の運び出しが終わったと知らせに来てくれた。 ルビーフォルン商会からの物資を、この領内の要所にいきわたらせるのは私の仕事だ。「それではお預かりいたしました。あとは私共にお任せください」 アリーシャ殿もそれを聞いて、また最初のような穏やかな雰囲気に戻って、「よろしくお願いします」と言って丁寧に腰を折った。先ほどのアリーシャ殿の不穏な雰囲気は私の思い過ごしだろうか。 彼女は、「今後の取引のお話は、また後日別のものをよこします」とだけ言いおいて、荷馬車に乗って去っていった。 それにしてもルビーフォルン商会は急激に大きくなった。 商会長はかなり若いと聞いてはいるが……そのうち商人ギルドの筆頭10柱に指名されるのではないだろうか。 今後のことも考えると、ぜひ取引を行えるように準備をしておかなければ。 だが、それよりも今は。 酒だ! 近くに待機していた家令が、心得ておりますという風に、酒樽を屋敷に運んでいく。 早速試飲をしなければ。ルビーフォルンの新しいお酒。「さあ、マリーナ、家に帰るよ」 愛娘を腕に抱えて弾む足取りで進んだ。