―――その仕草を見た瞬間、私は突然緊張を覚え、胸元を押さえた。どきどきと高鳴る胸とは反対に、『そんなはずはない』と、頭の中では冷静な声がする。―――『そんなはずはないから』 ―――『冷静になりなさい』けれど、私は見知った癖を目にして、どう考えればよいか分からなくなる。―――300年前の生で、彼は私と目が合うと、必ず眩しいものを見るかのように2回瞬きをしていた。それが、変わらない彼の癖だった。でも……、だけど…………混乱したままに、必死に縋るように見つめる私を、カーティス団長は困ったように見つめ返してきた。その伏し目がちな視線も、300年前の私がよく見知ったものだった。『………彼だ、彼だ、彼だ』頭の中の冷静な声を裏切るように、心の中ではそう声がする。私が瞬きもせずにカーティス団長を見つめ続けていると、団長は気まずそうな表情で、握っていた剣を鞘に戻した。その仕草ですら、見慣れたものに思えて仕方がない。『………彼だ、彼だ、彼だ。………私が、彼を間違えるはずがない』理屈も根拠もなく、心の奥底でそう確信した私は、もうどうにも我慢ができなくなって、思わず口を開いた。「……あなたのお墓は、この地にあると思ったのだけど、……見つけることができなかったわ」発した声は、誰が聞いても分かるくらいに震えていた。私の言葉を聞いたカーティス団長は、困ったような表情をした。「墓は、心が還る場所に在るべきだと思っています。私の墓は、魔王城の隣にあります。私がただお一人とお仕えした、敬愛すべき主の墓標となった魔王城の、その隣に」その言葉を聞いた瞬間、私の目からは滂沱の涙が零れ落ちた。私の涙を見たカーティス団長が、弾かれたように私の目の前に跪き、おろおろと私の頬の涙を拭うべきかどうすべきかと両手をさまよわせていたけれど、そのどこか滑稽な仕草ですら、私の涙を止める役には立たなかった。「……カノープス」私は300年ぶりに、その名を呼び掛けた。本人に向かって。