快晴のホームは5月にしては日差しがあり、とはいえ青森につけば5度は下がるだろう。 東京駅のホームでは、精霊魔術師という稀有な者であろうともポカンと口をあけてしまう。そこには新幹線「はやぶさ」が構えており、その南国の海を思わせるエメラルドブルーを見せ付けていたからだ。「え、え、なにかしらこれ、電車?」「日本が誇る新幹線だよ……あれ、最近ではそうでも無いのかな。ともかく相当な技術を込められた乗り物かな」 近未来的とでも言えば良いのか、流線型をした車体は大型施設のアトラクションを思わせるもので、いやおうなく気分を高揚させる。 まだ時間があるので先端部分まで一緒に歩いてみよう。すると分かるが先端は異様にかっこいい。独特のラインをした運転席を見るなり「これは速そうだ」などと思ってしまう。「うあーっ、綺麗な曲線! え、これが電車の最上位にあたるのかしら。いつかここまで成長するということね」「うん、しないよ。これは旅行専用に作られた乗り物で、青森まで可愛いエルフさんを運んでくれる『はやぶさ』さんだね」 繋げている手をにぎにぎしながら言うとマリーの瞳は輝いた。これに乗って青森へと向かう。その現実感がやっと来たのかもしれない。 そのままピカピカの車体をゆっくりと眺めながら歩く。 機能性と見た目を見事に両立させており、ホームには新幹線からのわずかな振動を伝えてくる独特の雰囲気がある。 少女と同じように黒猫もぱかりと口をあけ、その存在感に飲み込まれていた。「ここから乗るのよね。中はどうなっているのかしら」「乗ってみれば分かるよ。さて、参りましょうか」 日本語と英語のアナウンスが流れるなか、近くのドアから中へと入る。とたんにホームからの案内は静まり、渋い木目調をアクセントにした内装が待っている。独特の香りがあるのかエルフと猫は周囲をきょろりと見回し、手を引かれるまま空間を歩む。 そこにはグリーン席が待っており、天井からは柔らかい光が漏れている。直線にずらりとならぶ光景に、またも彼女たちは瞳を見開かせる。「僕らの席は向こうだね。周りに気をつけて」「中はこんな席になっているなんて……やっぱり電車の最上位は格が違うわ」 座席も落ち着いた色をしており、当たり前だが少女を窓際へと座らせる。まだ駅のホームしか見えないが、これからゆったりと景色を見れるだろう。 腰掛けた少女はくるりと振り返り「ふかふかだわ!」と座り心地を教えてくれる。どうやら喜んでくれているようだし、多少は奮発して良かったよ。 本当はもっと上のクラスがあるけれど、僕の収入では頑張ってもこんなものだ。まあそのうち収入が安定してから考えようか。 とりあえず荷物を上へ乗せ、黒塗りの猫ケースは少女の膝に置いた。「ウリドラ、しばらく静かにしているんだよ」 網カゴ越しにそう囁きかけると「にう」と小さな声で鳴いてくる。 猫でさえ瞳を輝かせているのは、きっと新幹線というものは乗客を楽しませるよう作られているからだろう。 落ち着いたアナウンス、静かな振動、なのにこれから何かが起きるようなワクワク感が確かにある。マリーも期待を高めているらしく、すこしだけ頬を赤くさせていた。「ねえ、ねえ、これはとても速く走るのよね。動物で言うとどれくらいかしら」「乗り物の名前のとおり大型の鳥、『ハヤブサ』だよ。案外とそれも名付け理由のひとつなんじゃないかな」 ふうん、と不思議そうな顔をする少女へスマホ動画でハヤブサを見せてあげる。そんなことをしているうちに発車時刻は近づいていた。 乗客はすべて車内へと入り、やがて案内は出発を告げる。 緊張をしているのか握った手は汗ばみ、とくとくと心臓の音まで聞こえてきそうだ。 やがて綺麗で明るいホームはゆっくりと動き出し、お弁当屋さんを越え、そして東京駅から放たれる。とたんに快晴に包まれたビル群が窓に飛び込んで、「わあ」と少女は声を上げた。「わ、わ、綺麗! 見て見て、建物がどれも綺麗よ」 大きなビルには青空が反射しており、確かに今日は天気に恵まれているなと思わせた。 やがて車内には軽やかな音楽が鳴り、案内伝えてくる。本日の運行予定が流れるなか、眼下には異なる電車が走っていた。 下にも上にも線路はあり、2人してあんぐりと口を開けて見上げている様子が可愛らしい。しかし景色を楽しんでいたところで、ふっと車外は暗闇へと包まれる。