翌日。オレは園丁頭のリリィさんにインタビューするため、昼過ぎに食堂へと向かった。「あぁら、プルちゃんね? 待ってたわよぉ」「うっ……す。プルムです、リリィさん」「嫌だわぁん、さん付けだなんて。リリィちゃんって呼んで、ねっ?」「う、うす。リリィちゃん」 野太い声で挨拶する園丁頭リリィ――筋肉もりもりマッチョマンの“オネエ”さんだ。 今までは遠巻きに見かけるくらいのもんだったが、いざこうして対面してみると威圧感がスゲェ。色々な意味で。「ジャスちゃんから話は聞いてるわ。アタシの伝記を書いてくれるんですってね! もう何でも答えちゃうわぁん!」 くねくねと巨体をよじらせて……オェ。「じゃ、じゃあ、さっそく……リリィ、ちゃんは何歳っすか?」「乙女に年齢を聞くなんてダ・メ・だ・ゾ。でも答えちゃう。今年で38よん」 38歳で乙女かよ。確かにMハゲと青ヒゲが歳を感じるなぁ……でも筋肉のキレだけはスゲェわ。「ここに来る前は何やってたんすか?」「冒険者よん。Cランクの体術師だったわぁ」 兄貴と同じように、遠い目をする。リリィさんも過去に何かあったのか……?「正直言って、冒険者なんてやりたくなかったの。でもお花屋さんみたいなやりたい仕事は見た目で断られちゃうから、力仕事をやらないと暮らしていけなかったわ」「でも強そうっすよね、リリィちゃん」「ううん全然。確かに力は強いけど、冒険者っていう職業はそんなに甘いものではないのよ。だからアタシみたいな中級冒険者は、チームを組んでダンジョンに挑むの」 リリィさんの化粧された明るい顔が、少し暗いものに変わった。「気持ち悪い……って、みーんな言ってたわ。面と向かって言われたり、陰口叩かれたり、言葉に出さなくても視線とか態度で丸わかりだった。オネエってだけで苛められるの。ハブにされたり物を盗まれたりね。どうしてこんな体に生まれたんだろうって思ったこともあったけど、悩んだってどうにもならないって痛いほど知ったから……」「リリィちゃん……」 苦労してたんだな、この人も。「ある日、アタシのいたチームに新しく女の人が入ってきたの。その子はアタシの心に理解のある子だった。出会って初日だったけど、とっても仲良くしてくれたのよ」「おお、捨てたもんじゃないっすね」「……その子が着替え中の見張りにアタシを指名してくれて、アタシとっても嬉しかったの。女として扱ってくれてるって、そう思ってた。でもね、その子は数分後に悲鳴をあげたわ」「は……?」「罠だったの。チームからアタシを追い出すためのね。チームメンバー全員が結託して、アタシを罠にハメたのよ」「…………」 ……酷ぇ。そんな酷ぇ話があんのかよ。リリィさんが何をしたっていうんだ、クソが。