「耀美さん」
話が終わったようなので、私は耀美さんに声を掛けてみた。
「あっ、麗華さん。どうしたの?」
「ずいぶん熱心に聞いていらっしゃいましたわね。マクロビに興味がおありなんですか?」
「ええ。とても興味深いお話を聞かせていただけたわ。私、今日来て良かった」
へー。去年は隠れてお菓子を食べていたくらいやる気がなかったのに。えらい違いだな。
「耀美さん、よかったらお茶でもいかがですか?私にもそのお話、聞かせてくださいな」
「私でよければ喜んで」
私達はホテルのティールームに移動した。
「実は私、お料理をするのが好きなの」
「そうなんですか?」
「ええ。大学の専攻もそちらだし、将来は料理に携わる仕事に就けたらなと思って…」
「まぁ」
おっとりとした耀美さんが、将来の職についてしっかり考えていることにちょっと驚いてしまった。お嬢様の中には当然のように花嫁修業と称して就職しない人が大勢いるから。
「それは自分でお店を開きたいということですか?」
「ううん。私にそこまでの才覚はないから…。でもいつかお料理教室の先生になれたらなって…」
耀美さんは恥ずかしそうに笑った。そうなんだー。
「だからいろいろなお料理を学びたいの。マクロビもそのひとつ。今もいくつかのお料理教室に通っているのよ?」
「そうなんですか!」
耀美さんは世界の調味料やおいしい出汁の取りかたなどの話を楽しそうにしてくれた。ポン酢と醤油のコレクターなんだって。
「これだから私、太っちゃうのね…」
「そんなことありませんわ。私も耀美さんの作ったお料理、ぜひ食べてみたいですわ」
「本当?でもまだまだなのよ?」
今回は耀美さんという会話が弾む話し相手がいるから楽しく過ごせそうだ。耀美さんともっと早く打ち解けていたら、去年ももっと楽しかったのになー。でも断食中に料理の話なんで拷問か。
部屋に帰ると梅若君からのメールが届いていた。“今日は夏期講習を休んでたので皆が寂しがってたよ。ベアトリーチェもだいぶ理想体型に戻ってきたので、来週会う予定を決めようね”という文と、梅若君の頬にキスをするベアトリーチェの画像が添付されていた。
ベアトリーチェに負けないよう、私も頑張らねば。
翌朝の散歩とヨガでは私はマダム達に囲まれ、鏑木のことを聞かれた。確か去年もあったな~。おば様達は若い子の話が大好物だ。
「麗華さん、雅哉さんとはお親しいの?」
「いえ、それほどでは」
「あら、噂は聞いていましてよ?麗華さんは雅哉さんと仲がいいって」
「素敵よね~、雅哉さん。私がもう少し若かったら」
「やだわ、奥様ったら。でも私も」
「ね~ぇ!うふふ、私達、雅哉様のファンなの」
「麗華さんもそう思うでしょう?」
おば様達は朝から元気だ。
「麗華さんと雅哉さんだったらお似合いね」などという戯言に嫉妬したのか、舞浜さんが私の足を引っ掛けようとしたので、無言で踏んでおいた。悪役小物の発想は瑞鸞も百合宮も同じだな。