──なんて思ってたら。突然、俺のスマホにもメッセージなるものが舞い込んできた。あわててスマホを覗く。『突然ゴメン。今日の夜、祐介の家に行ってもいいかな、久しぶりにゲームでもしようよ』 簡易なメッセージ。だが、ここ三か月は見られなかった内容のメッセージ。佳世からだ。 既読スルー上等。確認だけしてスマホをさっさとポケットにしまうと、白木さんが心配そうな目で俺を見ているのに気づいた。「……なんなんだよ、佳世のやつ。今さら、本当に今さらだわ」 おそらく誰からのメッセージか感づいているであろうから、はっきりと『佳世』という固有名詞を含めたうえで、さっきの白木さんと同じセリフを言ってみる。 少しは笑ってくれるかなと期待してた。それでも白木さんは無反応で、空気は重いままだ。 しゃーねーな。 俺は四文字だけメッセージを返すことにした。『だが断る』 シリアスな空気の時、おちゃらけたふりをするのは俺の悪い癖かもしれん。 でも、この時は場の空気を変えようと必死だったよ。 メッセージ画面を白木さんに無言で見せると、彼女はしばらくした後に眉を寄せたまま笑う。満点の笑顔には程遠いが、しかめっ面よりずっといい。「……それ、わたしもパクっていいですか?」 池谷になんて誘われたのかは聞けるわけもないが。 パクって良いよという意味で俺が頷くと同時に、白木さんは先ほど落としたスマホの電源を入れ直し、メッセージをパッパと入力して、またすぐに電源を落とした。 ひとりの時にメッセージを受けなくてよかったな。白木さんがいてくれてよかった。もしひとりだったら、きっぱり拒絶はできなかったと思う。 ちょうどその時、注文したラザニアがテーブルに到着。「……よし、食べるときは余計なことは抜きで、ただ美味しくいただくとしますか」「そうですね。作ってくださった人にも失礼ですから。では、いただきます」「いただかれます」 戻ればおそらく、不幸しか待ってないはず。それがわかるから、お互いにあえて触れないわけで。 アツアツのラザニアをフーフーと冷ましながら、ただただ口へと運ぶことに没頭した俺と白木さん。 その時ふたりで食べたラザニアは、少しだけ未練の味がした。 ──飲み込んで終わりにできたらいいな。