この頃、私は酒に溺れていた。 意識を失うほど酒を飲めば、生活苦も、将来の不安も、世界ランキングも、sevenの敗北も、全てを忘れられる。 少しでもストレスを感じる何かがあれば、大量の酒を飲む。それが、自分の「好き」を裏切る行為だと知っていながら、酒も嫌いではないと言い訳をして、私は度が過ぎた晩酌を続けた。 その愚かな行為は、やがて毎晩となった。 私の肝臓は静かに悲鳴をあげていた。 だが病院に行こうとは思わなかった。 酒を飲めなくなるくらいなら、メヴィウスができなくなるくらいなら、このまま死んでしまいたいとさえ思った。 そして―― ――死んだ。恐らく。 気が付けば、私は小さな船に揺られていた。 見渡す限りの海。一向に覚める気配のない夢。ログインした記憶のないサブキャラクター。管理画面の開かないゲームワールド。 死後の世界は、紛うことなきメヴィウス・オンラインであった。 日暮れを目前に流れ着いた先は、つい先日、大型アップデートによって実装された日ノ出島。 私が最も楽しみにしていた【抜刀術】、その本拠地。 私自身はカトリックとはいかないまでも、私の両親は敬虔なカトリックであった。ゆえに多少の影響を受けている。だからであろうか。この時ばかりは、私は神に感謝を捧げた。最期に、素敵な夢をありがとう……と。 私は酒をやめた。 やり直すのだ。思えば、前世では何一つ成し遂げることができなかった。 せめて、せめて、私の好きなものに対して、ちっぽけでもいい、何かを残したい。強くそう思った。 この“ボーナスステージ”は、いつ終わってしまうかわからないのだ。ならば、胸を張ろう。格好良く生きよう。いつ死んでもいいように。あいつは立派に死んだと、誰もがそう言ってくれる、そんな人生を送ろう。そして、私の生きた証を、私の大好きな人に残したい。 自分の「好き」に愚直な人でありたい。これは私の欠点であると同時に、唯一と言っていい、私の誇れる信念。 さあ、抜刀術を始めよう。 この胸に、あの熱き青春の日々を抱いて。