ゆえに、ミロクはほぼ同時に《銀将抜刀術》を溜め始めた。 最善だろう。 これで逆に向かってこられたら、俺は《金将抜刀術》で対応せざるを得ない。 進むも戻るも修羅の道。ならばと、俺は酷い目に遭うとわかっていながら《銀将抜刀術》で突っ込む。「正気か?」 ミロクは驚き呆れた。 この先の負けが見えているのに突撃する意味がわからないのだろう。 さて、ここで俺がどう切り返すかだが……正直、自信はない。大きな賭けだ。 しかし、こんなギリギリの賭けを繰り返すことでしか、勝ちの目は見えない。「行くぞ」 間合いを詰め、鯉口を切り《銀将抜刀術》の発動を見せる。 ミロクが左前の手で鯉口を切りながら、同じく《銀将抜刀術》を発動したところで――俺はスキルキャンセルした。「何!?」混乱するだろう。何が狙いかわからないだろう。 直後、俺はミロクの抜刀を躱すことだけに集中する。 ゆっくりと、ミロクの一撃が、俺のわき腹をかすめた。 大丈夫、服を斬られただけだ。「…………」 刹那、俺は心の底から願う。 焦燥を浮かべるミロクの顔を見て。 そう、そうだ……焦れ、怯えろ、追撃をしろ……! 来い、来い、来い……!「――ふぅっ!」 よし、来た!! 俺は追撃に対して即座に《歩兵抜刀術》で対応の準備をする。 どうやらミロクもシステムの例に漏れず、同時に一つのスキルしか発動できないようだ。腕が六本もあるのに、使用できるスキルは一つ。つまり、残りの腕で即座に攻撃しようとすると、スキルなしでの攻撃となる。だからといって逐一スキルを使用するとすれば、六本の腕を持つ意義は大いに薄れるだろう。 ゆえに、二の太刀はスキルなしの最速で来る。 焦り、怯え、自身の持ち味を無理矢理に活かそうとする。 分の悪い賭けだった。 だが、その予想は、当たってくれた。「オラァ!!」 俺は《歩兵抜刀術》を思い切りミロクの二の太刀にぶち当てる。 スキル自体の倍率と、抜刀ボーナスの128%とで、流石に競り勝った。「まだまだァ!!」 《角行抜刀術》による追撃。バランスを崩しているミロクの胸部に二の太刀を浴びせる。「ぐあっ!」 ミロクは突きを喰らった胸を押さえ、後方によろめいた。 与えられたダメージはそれほど大きくはないが……この賭けに、中盤の小競り合いに勝ったのは大きい。 俺はミロクが体勢を立て直す前に三歩後退し、間合いを取って納刀する。 再び、仕切り直し。 だが、これまでの仕切り直しとは、ちと違う。 ミロク不利での、仕切り直しだ。 現状、格上が、不利なのだ。 ……もっと焦る。もっと怯える。 お前の力は決して発揮させない。これよりも、もっと、もっとだ。「………………」 ミロクは、静かに立ち上がり、納刀した。 その美しい顔からは、これまでの余裕が消え失せている。「さあ、お遊びは仕舞いだな。さあさあ、構えろよ」 終盤戦、突入だ。