職人たちの朝……いや、夕暮れは早い。 のそりと身を起こしたのは一頭のリザードマンで、眠そうな目をしょぼしょぼと擦り、それから大きなあくびをひとつした。 彼らは本来、夜行性であり日中は日向ぼっこをしたり砂に潜ったりして過ごす。ずっとずっと昔、魔導竜に付き従うことを決め、長いこと迷宮暮らしを続けていても根っこの部分は変わらない。 歴史を振り返ると祖父の祖父の、そのまた祖父も迷宮で暮らしていたらしい。だが誰一匹としてそんな時代のことなど覚えていない。 ――なんか作りたいなぁ。 目覚めた彼は、ぱちんと瞬きをしながらそう思う。 祖先や歴史のことなんて知らないが、このところ建物や小道の整備、温泉や畑の管理などで活躍することが多かった。石ノミや木工道具が恋しくなるし、すごいものをこしらえたなぁと主人や人間たちから褒められたい。 作っているときは夢中になって、まったく他のことを考えない。もっと立派に、もっと使いやすく……などと試行錯誤をしていたら、仲間から寝る時間だよと声をかけられることもしばしばだ。 もうひとつ。自分たちが作ったもので人々が楽しく過ごしてくれる光景はどうにも忘れがたい。尻尾の先からビビッと震えが走って、じんわりと温かい熱を感じるのだ。それが何なのかはぜんぜん分からない。 しばし口を開けていたリザードマンは、ぱちっぱちっと瞬きを繰り返す。そしてなぜか全身に活力をみなぎらせて立ち上がる。 よし、やるか。そう口に出さずとも仲間たちも同じ思いだったらしい。すっくと立ち上がったのは一匹だけでなく、ざざざと黒い草原に数えきれぬ魔物らが現れる。 なんかすごいのを作ろうぜ。 そう下位竜語で鳴くと、賛同の意の鳴き声が広間に響き渡った。 これは手つかずの第三階層広間を、暇つぶしで開拓してゆく職人たちの物語である。