ということで私とゲスリーは同じ部屋に通された。 一応安全のためにゲスリーの近衛がベッドやクローゼットの中とかの様子を先に見る。 安全確認が終わると、近衛の一人がゲスリーに問題ないことを報告してくれた。 近衛の方よ。私と同じ部屋ということがすでに問題だということに気付いてほしいのですが……。 しかし誰もその問題点に触れぬまま、ゲスリーは伯爵が用意してくれた濃紫に月と星の模様が描かれた天蓋付きのベッドに腰を下ろしてくつろぎ始めた。ジャケットも脱いで上はシャツ一枚という軽装になっている。 ちなみに私はどうしたもんかと未だに扉の近くで呆然と立ち尽くしております。 さて、この絶体絶命のピンチをどう乗り越えるか。 私は十五歳にはなったけれど、うまいことタイミングが重なって正式にゲスリーと結婚とまではいっていない。 あくまで婚約者だ。 しかし、周りからしてみれば私とゲスリーがいずれ結婚するのは明白な流れであり、実際、未婚の男女なのに一緒の部屋で寝させようとする暴挙に出ている輩がいる。 まじで、私、ゲスリーと同じ部屋で一夜を共にしなくてはいけないのだろうか。 私とゲスリーの周りには、しばらく護衛がいるから二人きりになることはないけれど……寝る時はマジでどんな塩梅なんだろう。私の護衛役のアズールさんを常に側に置いてても問題ないかな。 しかしそれでも、貴族の人たちは召使いは家具の一つか何かだと思っている節があるし、無体なことをする可能性はなきにしも……あ、いや、ゲスリーの場合は家具じゃなくて家畜か。 周りの人達を家畜か何かだと思っているゲスリーが私に無体なことを働く可能性が……いや、よく考えたら私も家畜だと思われてる! え、じゃあ別に私身の危険を考えなくていいの……? え、でも私これでも年頃の女子で、あ、でもゲスリーにとっては家畜で……? なんか混乱してきた。 うーん、ゲスリーのことだし、家畜だと思っている私になにかよからぬことをするとは思えないような気もするけれど、婚約式の時ゲスリーは突然キスしてきたりした。 ああ、ゲスリーがゲスすぎて何を考えているのか分からない。分からないから怖い。 未婚の男女が一つ屋根の下なんて……めくるめく未知の世界が脳裏によぎって……。「ひよこちゃん、そんなところで立ったままでどうしたんだい?」 いっそ無邪気にも聞こえるゲスリーの声が聞こえてきて現実に引き戻された。 こいつ、私がこんなに悩んでるって言うのに、気楽な顔しやがって! 私はもういいや、と言う気持ちでスタスタとソファのあるところまで歩いた。「殿下、結婚前の男女が同じ寝具に寝るなんて早すぎます。私はこちらで寝させてもらいます」 婚前交渉は良くない。そう、良くないよ。 私の言い分は最もだ。もう可憐なふりをするのも疲れたし、わざわざゲスリー相手に可憐ぶる必要もない。護衛の目があるが、それがどうした。 私はソファーをぶんどることにした。 流石に王族相手にベッドを所望できないので、ソファ。 そして私はベッドとソファーの間の壁側に設置されているクローゼットとそのちょうど反対側に置かれたデスクを指差す。「あちらのクローゼットの角からこちらのデスクの角のところを境界線にして、その線から先は踏み入らないでください」 私が淡々とそう言うと、ゲスリーがクスクスと笑った。「ひよこちゃんが何を期待しているのか知らないが、そこまでいうならそれに合わせようか。そこから先へは行かない。これでいいかい?」 な、何その、呆れたような顔! き、きき、期待って別に……! 別に期待はしてないんですけど! なんか私が自意識過剰みたいな事言うのやめてもらえます!? だって、男女で同じ部屋って、警戒するの普通でしょ!? 普通の乙女の反応でしょう!? ていうか、こう言う時、王子だったら王子らしく女性を優先して『君がベッドを使いたまえベイベ』とか言うのがお約束だからね! それなのにさっさとベッドを一人で使うことに納得しやがってこのゲスリー! 私は心の中で決して口には出せないような悪態をついてから重いため息を吐き出した。