朝になった。 いつもより睡眠時間が短いせいか、体が少しだけ重く感じる。 まだぐっすりと眠っているルシアナとリファネル姉さんを起こし、集合場所である城壁の外へと向かう。 ちなみにレイフェルト姉は僕よりも早く起きていた。 ルシアナはブレスがきても弾き飛ばすとか言ってたけど、こんだけ爆睡してて大丈夫だったんだろうか………… まぁ、何事もなかったから良かったけども。「今日は姉さん達がどれだけ速く、ドラゴンを倒せるかが大事だと思うんだ」「あら? 急にどうしたのよ、ラゼル」 騎士団や冒険者の人達が集まってる場所へと向かう途中で、僕は姉さん達にお願いしておく事にした。 姉さん達は、僕がピンチにでもならない限り積極的に動くかわからない。 きっと、その間にも沢山の人が命を落とすだろう。 騎士団長のザナトスさんがどれくらいの強さかは僕にはわからないけど、今わかってる事実は、姉さん達ならば簡単にドラゴンを倒せるという事だ。 クラーガさんがいうには、大規模魔術でもドラゴンは生き残るって言ってた。 でもSランクのドラゴンさえ居なければ、騎士団や応援に来てくれた冒険者達でも何とかなると思うんだ。 だからこそ、今回の戦闘は姉さん達が如何に速くドラゴンを倒せるかによって、被害の規模が決まる。「いや、昨晩のドラゴンの襲撃で沢山の死人が出ちゃったしさ。覚悟を決めた冒険者や騎士団の人達ならまだしも、ただ平和に暮らしてるだけの人達が死ぬのは、悲しいなって」 僕に何とかできればいいんだけど。 残念ながら僕には、力も才能もない。 こんな時でも、姉さん達に頼らないと何もできない自分が情けなく感じる。「もちろん姉さん達の安全が一番だから、危なくなったら逃げればいいし、命をかけて戦えって訳じゃないよ? ただ、姉さん達にとってドラゴンが取るに足らない相手なら、今回の戦いではドラゴンをなるべく早く倒してくれたらなって。僕も自分の身は自分で守るから」 罪のない人が目の前で死んでいくというのは、中々に堪える。「確かに私達にとっては、蜥蜴なんて何匹いようとも敵ではありません。ラゼルがそこまで言うなら、今回はそのようにしましょう。私も早くシルベストに戻って、ラゼルに約束を果たして貰いたいですから」 自らのプルンッとした唇に指を当てて、僕の唇を見つめるリファネル姉さん。「約束? 何の事ですか、お兄様?」 僕と姉さんの会話に違和感を感じ取ったのか、ルシアナが僕の裾をクイクイと引っ張る。「ふふふ、ラゼルったらクラーガにキスしたでしょ? そのお詫びに、シルベストに戻ったら私達にもキスしてくれるんですって」「まぁまぁまぁ!! それはとても素敵な事ですわ!」 レイフェルト姉の言葉に、何故か喜ぶルシアナ。 あれ? この流れってルシアナにもする事になってない?「何か勘違いしてるようですが、貴女は駄目ですよルシアナ」「……何故でしょうか、お姉様?」 リファネル姉さんに言われて、ルシアナの顔が一瞬にして曇った。「貴女は昨晩、おでこにしてもらってたではありませんか」「そんな…………では私はお兄様とお姉様がキスするのを、指を咥えて見てる事しかできませんの?」「無理して見てる事はありません。私は貴女が眠ってからするので。お子様は寝てる、大人の時間帯というやつですね、フフフ」 なぜだろうか、少しイヤらしく聞こえるのは……「ほら、その話は後にしなさい。もう着くわよ」「うわ、凄い人数だね」 レイフェルト姉に言われて前方を見ると、そこには五千人はくだらない人数の騎士団と冒険者が、ゼル王国を守るように並んでいた。 先頭には騎士団長のザナトスさんが立っている。 その手には、巨大な盾を装備している。 本当に大きい盾で、体全部を覆い隠してもなお、幅に余裕がありそうだ。