「いいか、エコ。釣りってのはな、まずは情報収集だ」「さくせんかいぎ!?」「違う。お前……四文字熟語が全部“作戦会議”だと思ってないか?」「ううん?」「……ならいい。まずは釣具屋に行くぞ」「はーい」 折角だから、俺も釣りをすることにした。 この世界に来てからの釣りは初めてだ。 そのため、クーラの港に到着して直ぐ、俺たちは釣具屋へと向かう。 こっちの釣り場事情がメヴィオンと全く同じとは限らないからである。潮の流れや季節天候で狙いから何から全てが大きく変わるのが釣りだ。これがなかなか厄介なところであり、面白いところと言える。餅は餅屋、釣りは釣り屋、そういうこったな。「すんませーん」「はーい、どちら様――え゛っ」 小ぢんまりしたチープな釣具屋に入って呼びかけると、奥から店員のねーちゃんが出てきて俺の顔を見るなり喉に餅を詰まらせたような声をあげて硬直した。 俺を指さしながら口をパクパクと開けて声にならない声を出している。「困っちゃうね有名人は」「せかんど、ゆうめい?」「まあまあ有名」「よかったね!」「んー……んー?」 良いことなんだろうかね果たして。「せ、せ、せ、セカンド三冠、です、よね……!?」「そうだけど」「ど、ど、どうしてこんなクソ寂れた釣具屋に!?」「釣具を買いに」「で、ですよねぇーっ」 面白いなこいつ。「今なんかオススメの釣りとかある?」「あ、は、はい! ありますあります! セカンド様は、釣りは初めてですか!?」「いやまあまあやる方」「でしたらショアジギングなんかオススメですね! シーバスから底物に青物まで色々釣れますよ!」「はあ……」「お連れの方とまったり楽しむなら穴釣りで根魚狙いも楽しいです! 天秤仕掛けでチョイ投げなんかもいいですね!」「お、おう」「ブラクリ釣り、ご存知ですか?」「ブラ? クリ……!?」「いえブラクリです」「……ああそう」 やべぇこの娘ガチ勢だ。いきなりド下ネタを言いだしたのかと勘違いしてしまったが、どうやら釣り用語らしい。流石は釣具屋の店員、伊達じゃないな。「そちらの子は、磯竿ですか。でしたらサビキでアジを狙うと今の時期は尺超えが入れ食いですよ! それともカゴ釣りで大物狙います?」「あじ!」「アジ狙いですね? じゃあこのピンクスキンのサビキが抜群です!」 加えて商売上手ときた。 エコは渡されたサビキ仕掛けの入った袋をぎゅっと握って離さない。ありゃ買うまで離さないパターンだな。「セカンド様。正直、今の時期は釣れないことはないんですが、岸からだと魚の食いが渋いんです。船を出して沖のポイントまで行けば爆釣なんですが……」「船か。借りられんのか?」「いえいえ! うちの店長がご案内しますよ! その日の朝4時までにご予約いただければ大丈夫なんですが、今は他にご予約のお客様もいませんし、直ぐに出港できます!」 ……こりゃ、特別扱いされてんなぁ多分。それはなんだか気が引ける。「船はいいや。今日は岸から釣る。シーバス狙いだ」「でしたら河口側にキャストが良いですね! サビキでアジなら港内側へ少し遠めに落としてください! あっ、ロッドの貸し出しもしておりますが、ご利用なさいますか?」「いや……買うわ。万能型の、シーバスロッド? とリールをくれ。あとルアーと、ジグ? も欲しい。あ、ついでにチョイ投げ? の仕掛けと、エサとバケツとタモもくれ」「かしこまりました! とすると……これなんか如何でしょう? グリップ位置がかなり下の方にあるので、キャストしやすい設計になっておりまして」「……よくわからん。もう全部任せる」「はぁい! 任されました!」 …………はっ、いかんいかん。つい大量に買ってしまった。