食事の準備をしていると、同じ野営をしている一人がカイン達へとゆっくりと歩いてくる。 白いローブを着ており教会関係者だということはすぐに理解できる。歳は二十代半ばの青年が笑顔のままカインたちへ話しかけた。「馬車の旗を見る限り、エスフォート王国からだと思いますがハーナム司教の馬車でいらっしゃいますか? よろしければご挨拶をしたいのですが」「はい、ハーナム司教は天幕で休まれておりますが、お伝えしましょうか? 良ければお名前を……」「これは失礼しました。司祭を務めておりますオリバーと申します」「オリバー司祭様ですね。今司教様に確認を取ってまいりますので少しお待ちを」 冒険者の中で司教とのやりとりを行うのはカインだけとなっており、カインはハーナム司教が休憩している天幕へと向かう。 天幕の入り口で待機していた神殿騎士に伝えると、少し待つように言われてカインは入り口で待っていた。 すぐに許可が出て天幕へと入ると、司教の休むベッドの他、打ち合わせ用のテーブルも配置されていた。 打ち合わせの最中のようで神殿騎士二人とハーナム司教は地図を見ながら話し合っていた。「これはカイン殿。どうされました?」「今、オリバー司祭がお見えになられているのですが、司教様にご挨拶したいと……」「オリバー司祭ですか……大丈夫です」 少しだけハーナム司教は考えた素振りをしたが、笑顔で頷いた。「それではお伝えしてきます」 カインは天幕から出てオリバー司祭を迎えると一緒に天幕へと入る。 入れ替わりで神殿騎士が天幕を後にした。 ハーナム司教がオリバー司祭に席を勧め着席するとカインは天幕を出ようとしたが、ハーナム司教に止められて隣に着席することになった。 カインが同席することに、オリバー司祭は少しだけ表情を歪めた。しかしすぐに表情を戻すと定型的な挨拶から始まった。「お久しぶりです、ハーナム司教。ご健勝で何よりです」「お久しぶりですな、オリバー司祭も息災のようで」「……できれば二人だけで話したいので人払いができれば……」 オリバー司祭はカインへ少しだけ視線を送る。しかしハーナム司教は首を横に振った。「すまんがそれはできないのだ。ここまでくる道中、大規模な盗賊に襲われてのぉ。なんとか撃退はできたのじゃが……。何があっても一人にならぬように護衛から言われておるのでね」「?! それはまた……よくぞご無事で。私も本日山間の街道を抜けてきましたが、運が良いことに盗賊に合わずにすみました。もしかしたらその後に出没したのかもしれませんな……」「同じ道を……。それはよかった。うちの護衛は優秀で助かったが、普通なら耐えきれるものではないほど多かったのでのぉ」「そうでしたか。それでは仕方ありませんね。教皇選挙についてお話をお伺いできたらと思いましたが……」「その件については私も誰とも話し合うつもりはない。当日までな」「そうですよね。これは申し訳ございません。お忙しい中お時間をつくっていただき感謝いたします。本殿までご無事に辿りつけますように」 少しだけ不貞腐れた声で挨拶をしたオリバー司祭は席を立ち天幕を後にしていった。 オリバー司祭がいなくなるとハーナム司祭は疲れたようにため息をついた。「カイン殿、いやなところに立ち会ってもらってすまんの」「いえいえ、これくらいでしたら」「街の教会でも今回の選挙について探りをいれられておってな。どこに行っても同じなのじゃ。少し愚痴らせてもらってもいいかの」「僕でよければ……」