ごおお、と風が抜けてゆく。 その風にはたくさんの草の匂いが混ざっていて、どこか子供のころの懐かしさを僕は覚える。 辺りは真っ暗であり、天井がどれくらいの高さをしているのか分からない。シンと静まり返っており、ただ何もない空間に向けて、はあと息を吐き出した。 そのとき空がわずかに明るくなる。 冴え冴えとした三日月が姿を現したのだ。 それはどこか冬の気配を感じさせるものであり、ごしりと指先をこすりながら再び辺りを眺める。「うん、広いな……」 風で乱れた髪を気にもせず、僕はそう漏らす。 同感だったのか傍らにいた人物もひとつ頷いていた。 彼は僕よりも少しだけ背が高い少年で、その瞳には好奇心をありありと覗かせている。 そして、ニッとわんぱくそうな笑みを浮かべると、彼は前方を指さした。「本当になにもなくてワクワクするよ、北瀬君。まさかこの年で、蜥蜴と一緒に泥んこ遊びをするとは思わなかったけどさ」「やあ、これで晴れて有給仲間ですか。お互い変わった趣味を持ってしまうと大変ですね」 本当にな、と彼は笑いながら歩き出す。 辺りに見えるのはぽっかりと何もない空間であり、殺風景なことこの上ない。 だけどそんな僕たちの後方からは、ピクニックかと思えるほど大きなバスケットを持つ少女たちがおり、楽しく会話をしながら近づいていた。 そして向かうべき場所には、ぴょこんと頭を覗かせた蜥蜴もいる。夜目の利く向こうもすぐに気づいたらしく、大きく手を振ってきた。 さて、始めましょうか。 第三階層の開拓を。 そう考えていると、きゃーと笑いながら少女たちが草原を駆けてきた。