……なんだろうこの気持ち。これまでさんざっぱら苦労させられたこの極悪鬼畜コンボが、味方になった瞬間にクソほど頼もしく感じる。「やっちゃってくだせえ姐さん!」と応援したいほどだ。 とか何とか考えている間に、ブラックゴーストたちが一斉にあんこへと襲い掛かった。「うふっ!」 あんこは影杖をひゅんと振り――地面へ、ドスッと打ちつける。影杖の特徴は「影を攻撃してもダメージ判定となる」こと。あれは《銀将杖術》だ。前方広範囲への強力な攻撃。それも地面の影へ向けて。 4匹のブラックゴーストは一撃で葬り去られる。当然の結果だった。《暗黒魔術》を受けて残りHPが1しかないところへ回避の難しい影への広範囲攻撃。圧倒的だ。戦いにすらなっていない。これは非常に効率的で計算された戦略と異常にハイレベルな能力による狩りである。 いやぁー……なんだこれ。ヤバイぞ。ヤバすぎる。 何がヤバイって、そりゃ全部ヤバイが、中でも《暗黒魔術》がグンバツにヤバイ。まさか使えるとは思っていなかった。勿論だが、前世のあんこでは使えなかった。だってHPを強制的に1にする魔術だぞ? 確実に“ゲームバランス”が崩れる。 だが、そんな「ぶっ壊れ魔術」が使えてしまっている。つまりだ、今世のあんこは前世のあんことは明らかに違っている。意識から戦略からスキルから何から全て。 …………強すぎない?「……よくやった。素晴らしい」 俺は若干の戦慄とともにあんこを褒めた。 仕事後の余韻に浸っていたあんこは即座に振り向き「勿体なきお言葉です」と一礼する。実に従順。嬉しくなっちゃうね。 さて、それじゃあちょいと確認させてもらおう。前世と今世の違いとやらを。「あんこ、お前のステータスを見るぞ」「はい、どうぞご覧になってくださいまし」 一言断りを入れると、あんこは影杖を仕舞って俺に身を寄せてきた。少し……いやかなり近い。そしてでかい。いや、今はでかいとかどうでもいい。でもでかいものはでかい。くっ、でかいぞ。とにかくでかくてでかい。 …………。 ああ、納得した。“制約”が増えている。《暗黒魔術》は「自分より弱い相手にしか使えない」という条件が追加されていた。そしてクールタイム、これが3600秒もある。1時間1回制限。うーん、それでも十二分に規格外なスキルだ。 加えて《虚影》のクールタイムも40秒から300秒に伸びていた。確かに3秒間無敵を40秒に1回使えたら強すぎる。 他にも《暗黒変身》のクールタイムがなくなっていたり、《暗黒転移》と《暗黒召喚》のクールタイムが60秒に設定されていたりと、スキルにちょこちょこと修正が加えられていた。 前世と比べると全て上方修正である。テイム前と比べると《暗黒変身》以外は全て下方修正である。これがどういう意味か。「テキトーではない」のだ。非常に考え抜かれた調整と言える。 で、だ。 俺は確信した。 神がいる。否、製作者がいる。 何処の誰なのか、一体どんな奴なのかは見当も付かないが、確実に「存在する」ことだけは分かった。メヴィオンに似たこの世界のバランスを保つため、大なり小なり苦心してくれている。テイムされた暗黒狼の保有スキルに“この世界向けの”修正を加える程度には。