「まずいな……」 午前でテストが終わった俺は、家に帰って桜ちゃんお手製の昼食を食べながら、そう呟いた。 まずいと言っても、それはテストじゃない。 テストはいつも通り可も無く不可もなくと言った感じだ。 数学は明日だけど、それも多分いつも通り出来るだろう。 じゃあ何がまずいのかという事なのだが――現状それは二つある。 まず一つ、それは俺が作ったアンチウイルスソフトの発表が明日に迫っているのにも関わらず、未だに平等院アリアが行動を起こしていないという事だ。 それは俺自身で確認している事だから、まず間違いない。 勝負資金が十万円というかなり低い資金なのだ。 そんな資金で平等院システムズの様な高い株を買おうと思ったら、買える株数はたかが知れている。 だから普通の人はまず買わない。 そしてアリアが株を買うとしたら、十万円で買えるだけの株数を必ず買うはずだ。 しかし俺が調べている限り、その条件に当てはまる株を買った人間は居ない。 これは非常にまずい事である。 このままいくと、最悪アリアが株を買ったかどうか確認をとれないまま、アンチウイルスソフトが発表されるギリギリに行動をとるしかなくなる。 アンチウイルスソフトが発表されるタイミングは朝の十時――株取引が開始された一時間後だ。 それからは株が上がっていくだろうから、必ずアリアはそれまでに行動を移す。 アリアが最終的な結果を提示し合う日に指定したのが、終業式の次の日だった。 そしてアンチウイルスソフトが発表される日が――アリアとの勝負が決着つく日から四日前なのだ。 何故俺がそれを知っているのかというと、アリスさんと取引をしたからだ。 こちらが求めた条件がこれだ。 1.資金として二億円を貸してもらう。 2.アンチウイルスソフトが発表される日と時間を教えてもらう。 3.俺が平等院システムズから受けとった報酬で、税金用に避けている口座からKAIの口座にお金を移動させてもらう。 ――という三つだ。 1と2は勝負として必要だったから、そうした。 3は俺の別の目的のために必要だったからだ。 そしてその口座はAさんであるアリスさんにしか扱えないため、俺はアリスさんに頼んだ。 その代わりにアリスさんが俺に提示した条件が――。「――お兄ちゃん……ご飯おいしくなかった……? ごめんね……」 俺が考え事をしていると、俺の独り言を聞いて勘違いした桜ちゃんが泣きそうな顔をしていた。「ち、違う違う! ごめん、テストがまずいなって思ったんだ!」 俺は桜ちゃんに、咄嗟とっさにそう言い訳をした。 すると、桜ちゃんはニコッと微笑んだ。「あんまり思い詰めたら駄目だよ? 今出来る事をやるしかないもん」 桜ちゃんはそう言って、天使の様なスマイルで俺の顔を見上げてきた。 どうやら、桜ちゃんは元から俺がテストで思い悩んでいると思って、空気を変えようと冗談を言ってくれたみたいだ。 そして桜ちゃんがなんだか立派な事を言ったため、妹の成長に俺は嬉しく思った。 それに比べて――俺は現在隣に座って頬を膨らませてる、お姉さんを見る。 話は戻るが、俺がもう一つまずいと思っているのが、この咲姫についてだった。