「奥さん、今度コイツが下手を打つような事があったら、本当に見捨てた方がいいぞ」「いや、大丈夫だ! 心を入れ替えて働くから」 クロトンと奥さんが顔を見合わせて頷うなずくと、何かを差し出した――彼の掌に載っていたのは金の指輪が2個だ。「申し訳ないが、俺達に残っている金目の物はこれぐらいしかない」「おい、これって結婚指輪じゃないのか?」「誂あつらえた物じゃないんだ。昔、古道具屋で買った物さ。金貨1枚分の価値もないと思うが受け取ってくれ」「いや、しかし……」「頼む……」「解った。それじゃ、これは担保として貰っておく。金貨5枚は貸しという事でな。いつか金が出来たら、その時この指輪と交換してやるよ」 クロトンが手綱を取り、荷馬車が出発した。 一緒についていくニャニャスは、走っていくと言う。 まぁ、時速10㎞ぐらいじゃ、獣人にとっては歩いているようなものか。「マリー! 元気でね!」「アネモネもね!」 涙を流し手を振り合う2人であったが、すぐにカーブした道で彼等の姿は見えなくなった。 アネモネはしばらく、彼等が消えた先を見ていたのだが――。「ふぅ……疲れたわ。俺たちも帰るか」「うん……」 一応、サンタンカの住民にも挨拶をしたのだが、彼等は俺たちには興味はないようだ。 所詮よそ者だからな。 ニャニャスとクロトンの女房が俺達に助けを求めたのも、村からの疎外感があったのかもしれない。 これから彼等が向かうノースポール男爵領は新規の住民が多い。移民には向いているだろう。 アネモネを抱え太腿まで浸かり川を渡る。湖に流れ込んでいる所は流れは速くない。 川を渡り終えた後、村から見えない所で、オフロードバイクをアイテムBOXから取り出してアネモネとタンデムした。 やはり、バイクは速い! あっという間に家に到着した。「にゃーん!」 ベルが黒い毛皮を光らせて出迎えてくれた。 だが、その顔は――お前ら私を放置してどこに遊びにいってたんだよ? ――みたいな顔に見えなくもない。「悪い悪い」