七海の「ボックス!」という声とともに、今度は祐太が攻めた。七海は両手のグローブを顔の前に当て、両肘がくっつくくらいに閉じて祐太のパンチを受け止めた。祐太は体重を乗せて左右の連打を浴びせていく。バスッ!バスッ!という音と同時に感じる強い衝撃を七海は歯を食いしばりながら耐えていた。 祐太の連打は単調だったが、万が一直撃するとダメージが大きいため、七海は必死に耐えていた。 ジンジンと腕がしびれ始め、ぴったりと付けていたグローブの間が開き始めたとき、祐太の右ストレートがグローブの間を抜けて七海の顔面に深くめり込んだ。 七海が汗と唾液を撒き散らしながら後ろにふらついたところに、続けて放たれた祐太のパンチが七海の顔面を捉える。祐太は一心不乱に連打を続け、そのほとんどが七海の顔面やガードしようと上げたグローブに当たり七海の身体はサンドバッグのように大きく左右に揺れ続けた。 徐々に後ずさりしていた七海は背中が壁に当たったのを感じ、力を振り絞って斜め前に踏み出したその瞬間、祐太が思いっきり放った右のボディアッパーが七海のボディに深くめり込んだ。 七海が「ヴォエェーッ!ウェッ!オゥェーッ!」と声にならないようなうめき声を上げながら苦しそうに前屈みになり両膝を床に着いた。七海の目からは涙が溢れ、口からは唾液の糸をひきながらマウスピースがこぼれ落ちた。 祐太「どうした?ハァ、ハァ、ボクシング部なのに俺に負けちゃっていいのか?」 七海の顔は大量の汗と唾液、そして涙と鼻血でぐちゃぐちゃになっていた。立っている祐太を悔しそうにキッと睨み唾液まみれのマウスピースを拾い、口にくわえ直して立ち上がった。目から涙がこぼれ続けているが、その顔は怒りに満ちていた。