「なんだかんだ言って楽しんでますよね」「まあ、それがモットーですから。ところで鳴瀬さんはこの後どうするんです?」ヒブンリークスの方は、新しい碑文が見つかるまで特にやることはない。「芳村さん。私は一応、JDAの職員なんですけど」「いや、それは知ってますけど……」「色々ありますけど、今はオーブ情報の整理と……そうだ、たった1日で、JDAに鑑定依頼だの紹介依頼だのが積み上がってましたよ?」「未知スキルやアイテムのうち危険そうなやつは引き受けますけど、それ以外は基本パスです」「そう言うと思ってました。しばらくJDAに近づかない方が良いですよ」「なにかありましたか?」「瑞穂常務が、三好さんは知り合いだからみたいな態度で、いろいろと安請け合いしているという噂が……」「うわー……、先輩。しばらくダンジョンに逃げませんか? 実は、あれができあがってくるんです」それを聞いて鳴瀬さんが、「アレ?」と首をかしげた。それを見た三好は、「ふっふっふ。それは秘密のアイテムです!」と言って煙に巻いていた。「はいはい」とそれをいなした鳴瀬さんは、突然真顔になって言った。「そうだ。謎のジ・インタープリターの正体を確認するミッションが追加されていました!」それを聞いた俺達は、思わず顔を見あわせて吹き出した。 ◇◇◇◇◇◇◇◇松もとれていないどころか、3が日も過ぎていないから空いているだろうと思ったら、意外と人がいた。ホビー組が多いのだろう。おかげで初心者装備をつけた俺達は、代々木ダンジョンで特に目立つこともなかった。普段着すっぴんでウロウロしてたら、芸能人も意外と気付かれないというし、実際東京の人間は、道ですれ違う人の顔なんか、ほとんど気にしていない。「そういや先輩。榎木さんからも連絡がありましたよ」「榎木? 今頃なんだって?」「素材の鑑定をやってくれって依頼でした」「ああ、TVを見たんだな。流石に知り合いには分かるか」「名前が同じですからねぇ」しかも、連中は俺達の連絡先も知っているから面倒だな。携帯替えるかな。「君たちのせいで、元同僚が苦しんでいるんだから、力を貸すのは当然だ、みたいなノリでした」「あのオッサンは相変わらずだな。しかし、例のプロジェクトか。まだやってたんだ」「そりゃ、やってますよ」ダンジョン素材の利用は、やはり可能性ですからね、と三好が言った。「で、なんて言ったんだ?」「要約すると、『知らんがな』と言っておきました」「ぷっ。榎木怒ったろ?」「先輩、私はもう部下じゃないんですよ。流石に罵倒はしませんよ」静かな怒りは感じましたけどねと三好は肩をすくめていた。「しかし鑑定か。JDAにも依頼が積み上がってるって言ってたし、なにか社会貢献っぽいこともしておかないと、叩かれても面倒だな」「なら、オーブやアイテムの鑑定結果を公開しますか?」「いいけどさ。JDAでの公開だと、俺達が協力してるって事がまわりに伝わらないから効果がないかも知れないぞ? ダンジョン情報局に、『梓の今日のアイテム』みたいなコーナーでも作るのか?」俺は笑いながら言った。「そうですね、今ならyoutuberになって、アイテム鑑定情報局!とかいうチャンネルを作ったら、すごいアクセス数が稼げそうな気がします」「で、それ、やりたいわけ?」「7回くらい生まれ変わったら考えます」「だよな」「ただ、日本人形の恰好でやっておけば、さらにそういうイメージが定着するかなという期待はあるんですよね」「リアルバーチャルユーチューバーか」「もはや意味が分かりませんね、その言葉」そんな話をしながら、2層の最外周に近づいたところで、天辺に何かが立っている低い丘が見えてきた。あれが、俺達の農園だ。そこを選んだ理由は色々とあったが、決め手は1本の小さな木が生えていたからだ。俺達は、その木を含む、僅か2畳ほどの空間を高さ3m程の網で覆った。ゴブリンが登って乗り越える可能性もあったが、壁だと日当たりが問題だったのだ。一応ネズミ返しならぬゴブリン返しは取り付けてある。足下にはスライム対策に、動体センサーとシャワー状の管が取り付けられていて、スライムが近づくとエイリアンのよだれが噴出するようになっていた。