とある休日。 ヴァニラ湖の隅の隅のそのまた隅。滅多に誰も寄り付かないその穴場に、釣り道具を持って訪れる男が一人。骨ばった顔、オールバックに固めた黒髪、何人も殺していそうな鋭い三白眼、がたいの良い長身、30手前のパワー溢れる貫禄。義賊R6の構成員、若頭キュベロの舎弟ビサイドである。「おう、坊主。また今日も暇しとんのけ」 ビサイドが声をかけたのは、目つきの悪い16ほどの青年。ビサイドは親しみを込めて彼のことを「坊主」と呼んでいる。その坊主は、既に一人で釣り竿を構えていた。「兄貴こそ、仕事はええんか?」「ああ、今日は休みじゃ」 よっこいしょと呟いて、ビサイドは坊主から少し離れた岩場に腰を下ろす。「何じゃあ、まだボウズやんけ。坊主だからボウズってか、え?」「うっせ。今に掛かるわ」「おっしゃ、なら早掛け勝負じゃ」「はいはい」 軽口を叩き合いながら、仕掛けの準備をするビサイドと、釣り糸を垂らす坊主。 心地良い空気、流水の音、微風の匂い、暖かな冬の日差し。これが、いつもの休日の風景であった。「よいせっ」 ビサイドもひょいと仕掛けを放り、坊主に続く。 彼は思う。こうして坊主と釣り場を共にするようになってから、何週間が経っただろうかと。 二人の出会いは、甚だ、鮮烈なものであった――。