「――ご歓談中、失礼いたします」 と、そこへ。珍しく執事のキュベロではなくメイドが現れた。ユカリは彼女の姿を見て「早かったですね」と呟く。何だ何だ?「R6メンバーのビサイド様を使用人邸にて確保しております。如何いたしましょう」「おお、頼んでいたあれか。本当に早かったな。ベリナイス!」「……も、勿体ないお言葉です」 メイドは照れるように俯いた。ということは彼女が捕まえてきたのか。ユカリは「調査のプロ」と言っていたが……うーん、そんな風には見えない。何処にでもいそうなごく普通の女の子だ。人は見かけによらないな。「俺とキュベロで、今すぐ会いに行く。準備を頼む」「かしこまりました」 そうとだけ指示を出して、俺は朝メシをかき込んだ。ウィンフィルドは「いよいよって感じだね」と何だか楽しそうな様子である。 そして、数分後。 俺たちは使用人邸の地下室にて、生き証人と対面を果たした。「カシラああああッ! よくぞ、よくぞご無事でェッ!」 うるさっ……というのが第一印象。第二印象は、顔こわっ、だった。 流石は渡世人、義賊という大博打に人生を賭けただけはある。騎士団によって牙を折られ群れを散り散りにされても、その眼力は研いだナイフのような鋭さだ。骨ばった顔とオールバックの黒髪も迫力満点である。「ビサイド。あの地獄の中、よく生き抜いてくれた。私はお前を誇りに思う」「身に余る言葉です! おいらなんか、生きてようが死んでようが関係あらへん! カシラ! あんたが生きてるってぇことが、R6にとってデカイんじゃ! R6再生も夢じゃあねえ!」「違う。お前たちが命賭けで逃がしてくれたからこそ、私はここにいる。そして、あの地獄を知っているお前が生きていてくれたことが、我らR6にとって、そして私のご主人様にとって大きな力となる」「ん……? ご主人……ですかい?」「セカンド・ファーステスト様。お前も、私と同じく、この御名前を決して軽んじてはならない」「…………そうか、あの暗殺者」 キュベロから俺の名を聞いたビサイドは、何やら呟いてから立ち上がった。視線は俺の方を向いている。「ビサイド! 変な気は起こすな――」「いや構わない。覚悟あってのものだろう。お前の舎弟らしくていいじゃないか。お前に似て少しヤンチャなところがあるんだ」「……お恥ずかしい限りです」 睨み合う俺とビサイド。止めに入ったキュベロは、俺の言葉に少しだけ顔を赤くして身を引いた。「失礼を承知で……いっちょ試させてくだせぇ」 ビサイドは首をコキコキと鳴らしながら近づいてくる。構えらしい構えもない。こいつ、相当に喧嘩慣れしてるな。メヴィオンじゃない場所で遭遇したらまず間違いなく勝てないだろう、本場の“喧嘩屋”だ。「すまんが、喧嘩にはならないぞ」 だが、ここはメヴィオン。どう足掻いてもネットゲームである。一対一で向かい合えば、それは喧嘩ではなくPvPだ。ステータス差は容易には覆らないし、習得スキルの数やそのランクの差も大きい。そして何より、PSの差は絶大。「――シィッ!」 ビサイドの右ストレート。まずは小手調べ、とでも言わんばかりの《歩兵体術》だ。見てから回避余裕である。 ナメプかよ、おいおい……。「おおっ、こいつを躱しますかい!」「…………」 ビサイドは「やりますねぇ!」と調子に乗っている。そんな様子を見て、キュベロは頭を抱えていた。 そう、それだけはやっちゃあ駄目だった。「敬愛する若頭の主人がどれだけ強いか試してみたい」という気持ちならまだ理解できる。だが、いくら力試しの喧嘩とはいえ、世界一位を舐めてかかるのだけは……大悪手だ。 俺は少々むかっ腹が立った。 なので、本気を出してビビらせてやろうと、無言で《精霊召喚》する。「(アンゴルモア、憑依)」「(御意)」 念話で即座に《精霊憑依》を命じる。 瞬間、アンゴルモアは虹色の光となって俺と一体化した。