「ランプの灯を点けられたのか」 この世界に売っている灯油ランプは火石による点火式だ。しかも燃料を火石の熱で気化させてから燃やすという、結構ハイテクな仕掛けだ。 だが、俺が買ったのは行灯のような単純な灯油ランプ。「これがあるからね」 ニャメナが取り出したのは、先端に赤い石が付いている棒。 こいつの尻を捻ると先についてる火石で火が点けられるという――いわゆるマッチ。 灯油ランプは高価なので、皿に芯を浸した行灯も、この世界では広く普及している。 もちろん蝋燭もあるが動物の脂から作るので、やはり高価だ。「シーツは3枚やるから、洗うのは自分でやってくれよ」「はいよ~」「虫除けの魔石は持ってるか?」「大丈夫だよ」「そうか、それじゃな」「あら~、女の部屋へやって来たってのに、何もしないで帰るんですか?」 俺が小屋から出ようとすると、ニャメナがベッドから立ち上がり俺に抱きついてきた。 だが、それと同時に小屋の扉が勢い良く開いた。「ふぎゃー! 帰りが遅いと思ったら何をやってるにゃ! そんなにやりたかったら、ウチとやればいいにゃ!」「なんだよ、こっちに少し回してくれてもいいじゃないか」「断るにゃ!」「もう、俺の方が上手いからさ。締りもいいし」 ニャメナは俺を誘うように、尻を向けて尻尾で、おいでおいでをしている。「そんなのウチも負けないにゃ!」 ミャレーも負けじと、尻を向けてくるのだが――こいつ等は……。「俺は口でも上手いよ~やってみる?」「ウチ等、牙があるのに口なんかで出来るはずないにゃ!」 全く、なんちゅー会話をしてるんだ。とても、アネモネには聞かせられん。「あ~なんだ知らないのかい? そういう技があるんだよ。試してみる?」 ニャメナは長く筋肉質の両手を俺の首に回してきた。彼女は俺より背が高いので、本気でこの状態になったら逃げられないな。「離れるにゃー!」「はいはい、お前ら騒ぐなって。今日は黙って寝ろ」 ニャメナの腕を外して身体を離す。「なんだよー乗りが悪いなぁ」 彼女は、俺が誘いに乗ってこないのが不満のようだ。マジなのか冗談なのか、イマイチ判別が出来ないのだが。