「それは、街の奴等には言わないでくれよ」「解ってるよ。でも、その討伐をした凄い魔導師って奴が、ダリアから逃げ出したって噂は聞いたけど、それが旦那の事だったなんて……」「面倒な事になりそうだったんでな」「それで、お嬢を置いて逃げたのかい?」「うぐ……まぁ、それがなんだ……」「私など、ケンイチからすれば、そこら辺に転がる石ころに過ぎなかった――という事です」 プリムラの冷たい視線が俺に突き刺さる。やっぱり未だに恨んでいるようだ。「そうじゃないんだけどなぁ」「旦那ぁ――お嬢みたいな良い女は滅多にいないぜ?」「それは解ってる」 それはひとまず置き――。 元気が出たアネモネをオフロードバイクのリアシートに乗せて、出発だ。 硬くなった湖の水際を水しぶきを上げて走る。当然淡水だからな、錆びる事もない。 こんな事を海沿いでやったら、洗車をしないと大変な事になってしまう。 バイクは最高速で時速60㎞程出ているのだが、それでも獣人達は並走している――彼女達のスピードに舌を巻く。 10分程で、ピンク色の印を付けた木が見えてきた。「その魔法で動くドライジーネは、すごい速さで走るんだな」「まぁな、お前らも速いな」「短時間なら、もうちょっと速く走れるぜ」 ――それじゃ、最高速は時速80㎞ぐらいか? ニャメナが、印を付けた木に気がついたようだ。「あの変な色の印は、旦那が付けたのか?」「解りやすいだろ? このまま真っ直ぐに森に入って崖へ向かえば、洞窟の正面に出るはずだ」 そのままハンドルを右に切ると、獣人達を引き連れて森の中へバイクを入れる。 しばらく暗い森の中を進むと、黒い裂け目が見えてきた。「あれか……結構高さがあるな」「だが、奥のほうは狭くなってるぞ」「それでも、突然広い場所が広がっていて、そこが巣になってたりするんだ」 住み着くのは洞窟蜘蛛だけではなく、牙熊や他の魔物も同様だと言う。