毛布を敷き、その上へ横になる。 久しぶりに友人たちと再会したけれど、残念ながら夢から覚めなければいけない。腕を枕にエルフは横になり、いつものように脚のあいだへ膝を入れてくる。 くあり、と可愛らしい欠伸を見せてくれ、それから眠たげな顔を潜り込ませてきた。 お腹まで密着すると、眠いとき特有の体温が伝わってくる。これなら毛布が無くても眠りにつけそうだ。「んん、もうダメぇ……。畑は明日の楽しみに、するわ……」 そう呟き、エルフの瞳は閉じられてゆく。 ずっと前に聞いたけど、マリーは眠ることが苦手な時期もあったらしい。まあ、今となれば信じられないけどね。 遅れて背後に気配がすると、遠慮なくウリドラから抱きつかれる。 さすがにね、くっきりした目鼻立ち、そして惚れ惚れするような黒髪を伸ばした彼女から密着されるのもだいぶ慣れたかな。「ふうむ、やはり久方ぶりの日本には胸が高鳴るのう」「あれ、いつも黒猫で過ごしているのに? 生身だとやっぱり違うのかな」 少しだけ振り返ると、ウリドラは肘をついて頭を支え、僕を覗き込んでくる。焚き木の明かりで切れ長の瞳は瞬き、嬉しげに細めた。「うむ、勿論じゃ。おぬしらへ突っ込みを入れられぬのは、それはそれでストレスがかかるからのう」 お手柔らかにお願いします、としか言えないね。 ただ、あまり振り返ってはいけないな。彼女は魔導竜のせいか、衣服を着て眠るという習慣が無い。女性として母としての膨らみを背に受けて、少しばかり前言撤回しそうになったよ。 まだまだ慣れるまで時間がかかりそうだ。 毛布を上からかけ、焚き木の炎も小さくなるころ、僕も眠りに落ちそうなことを自覚する。身体の端から感覚がボヤけてゆき、前後の寝息から誘われるようまぶたは重くなってゆく。 最後に夜空を見上げると、星たちの代わりに半透明をした女性がいた。「やあ、シャーリー。今日は長居できなくてごめんね」 ううん、と彼女は首を左右に振る。 少しだけ不思議そうな表情は、僕らの寝入る姿を見たせいかな。こういう風に、皆で日本へ移れるよう、僕らはくっついて眠るんだよ。 生身では彼女に触れられない。 しかし前髪をくすぐられると、気のせいか撫でられたように思える。ほんの少しだけ温かく、そしてくすぐったい。 いつもより気持ちよく眠れそうな予感と共に、最後に彼女へ囁きかけた。「おやすみ、シャーリー」 おやすみなさい、と彼女の唇は動き、落ちてゆく感覚と共に僕は眠りについた。 さて、彼女はいつの間にか膝枕のような体勢をしてくれていた。そして僕ら3人の存在感が薄れてゆき、徐々に輪郭を失わせてゆく光景に、シャーリーは青空色の瞳を丸くする。 それから何故か辺りをきょろきょろと見回し、好奇心に負けたように両手を、身体を、僕へと預けてきた。まるで空気へ溶けてしまうように、ふうっと皆の姿が消えたとき……結局、森には誰も残されなかった。 ほう、とふくろうの声が森へ響いた。