鬼穿将戦、挑戦者決定トーナメント決勝。 対戦相手は、盲目の弓術師アルフレッド殿。 私と彼は、何も語ることなく、ただ静かに弓を構え、審判の声を待っていた。 ……勝っても負けても、恨みっこなしだ。「始め!」 号令がかかる。 私は気を重くしながらも《歩兵弓術》を準備し、アルフレッド殿へ向けて放った。 奇襲戦法、その参――“新鬼殺し”。その第一手である。「甘い」 アルフレッド殿は、まるでそこに矢が飛来することが分かっていたかのように、ひらりと最小限の動きで身を躱した。 そして、反撃とばかりに《歩兵弓術》を放つ。「むっ!?」 鋭い。ディーの射るそれより、何段階か上の狙いだ。この距離で正確に私の頭部を捉えてきた。 だが、まだまだぬるい。世の中には、どのような距離からでも、いくら動いていようとも、呼吸するように顔面それも眉間のみを狙い撃ちしてくるバケモノがいるのだ。私はそのような男と3週間も訓練していたのだ。言ってしまえば、慣れっこであった。「はっ」 次いで《歩兵弓術》。シュパパッと、三連打。これも“新鬼殺し”の準備である。「良い腕だ」「そちらもな」 それから私たちは、《歩兵弓術》で互いに小競り合いを続けた。 アルフレッド殿は私の出方を窺っている。セカンド殿の言った通りだ。私はニューフェイス、情報が足りないのだろう。後の先を取ろうというのがあちらの狙いと見た。 だが、私がただ単に《歩兵弓術》を射っていたのだと思ってもらっては困る。 仕掛けるなら、ここだ……!「受けてみよ! “新鬼殺し”!」 私はしっかり礼儀を守ってから、勢い良く前方へ駆けだした。 アルフレッド殿は何やらスキルを準備している。恐らくは“対応系”だろう。 その選択は、本来ならば間違いではない。 ……本来ならば。「何っ……?」 私はアルフレッド殿のスキル準備に合わせて《角行弓術》を準備し、上空へ向かって放った。 混乱している。その様子が見て取れた。「くっ」 こちらの狙いが分からないのだろうアルフレッド殿は、準備していたスキルをキャンセルし、左方へ素早く三歩だけ移動した。 …………凄い。本当に左方へ行った。狙い通りだ。 私は今まで、右方へ追い詰めるように《歩兵弓術》を放ってきた。場外=敗北ということを考えると、無意識に左方へ移動したくなるというもの。ごく単純な誘導だが、その効果は抜群だった。「勝負あった!!」 私は全力で接近しながら、大声で叫ぶ。 私の放った《角行弓術》は、アルフレッド殿の脳天まであと僅かの距離。「油断は禁物だ」 しかし。その矢が、そのまま、アルフレッド殿に届くことはなかった。 彼は迅速に《香車弓術》を準備し、自身の頭上に放って、迫りくる《角行弓術》の矢を――「……すまない」「!?」 ――弾く、その前に。私が大声で叫びながら放った《歩兵弓術》と《桂馬弓術》の複合が、《角行弓術》の矢へと、先にぶつかった。 キィン! というような、甲高い音が鳴り響く。 《角行弓術》は貫通効果を持ち、《歩兵弓術》と《桂馬弓術》の複合は貫通効果を持たない。ゆえに、ぶつかり合えば貫通矢の方が勝るはずだ。 だが、その貫通矢の横っ面に矢が当たった場合は? 答えは、ズレる。貫通矢の軌道がズレる。それも、《歩兵弓術》という《角行弓術》に比べて貧弱なスキルが当たったならば――僅かにズレるのだ。「ぐおっ!!」