感想を言おうと開きかけた口は、今度こそ指先のバツマークにより封じられる。 そうだった。先ほどは下手にたくさん褒めたせいで、彼女を困らせたのだった。 ではシンプルに「可愛いですね」とだけ伝えると、彼女はむにむにと唇を動かし、困ったような笑みを浮かべてくれた。 あんなに駄目だと言ったのに、この人はすぐに褒めてくる。そう思っているような顔をしているけど、女神候補なのだから小さなことは許してくれないとね。 肩をすくめる姿がおかしかったのか、くすくすと彼女は笑ってくれた。 少しだけ気をよくしてくれたのかもしれない。次に彼女の指先が向けられたのは、またも僕の脇だった。 あれ、もう何も持っていないよ? そう答えたけれど彼女は隣へ歩いてきて、そっと僕の肘に手を絡める。 柔らかく沈む腕に驚いたが、返ってきた瞳は「当然です」と言うように、つんと顎を反らしていた。 なるほど、先ほどの服で恥ずかしい思いをさせたのだから、エスコートで埋め合わせをしないと怒られてしまう。 ただし、次のプレゼント品を探す前に、その値札タグを取ってもらわないとね。 大型のショッピングモールは明るく、またプレゼントに向いた品はたくさんある。 僕も初めて訪れるアロマの店には、数えきれないほどの瓶が飾られており幻想的だった。 香りと雰囲気を楽しませることで、多少割高な価格でも財布の紐を緩ませる効果があるらしい。 とはいえ、これらは僕というより植物を愛する彼女にとって宝物に見えたと思う。 高いところにある瓶へ、懸命に指さしてくるのも微笑ましい。そのお試し品を手に取って、匂いを嗅いでもらうと「ふわー」という顔を見せてくれた。 お次は乾燥したラベンダーを束にまとめ、形の良い鼻でその香りを楽しむ。 それから思い出したように、どこからともなく大きめの本を取り出すと、せっせとスケッチを……こらこら、なにをしているのかな? その魔物図鑑は人前に出して良い品じゃないでしょう? こういうとき、シャーリーは恐ろしく人の話を聞かなくなる。 駄目だと言っても僕の手をどかし、「邪魔です」という顔をする。 ある意味でマニアというかコレクターなのだ。珍しいものや気に入ったものがあると、彼女の宝物に加えたくて仕方なくなる。 店員さんからの目に耐えて、ようやくスケッチが終わってくれると……そこには無味無臭のラベンダーが生まれていた。 一体どうなったらこうなるの? 香りやラベンダーとしての本質を、その本に取り込んだというの? ここが江東区だといつになったら分かってくれるの?「ありがとうございましたーー」