休日の午後という時間、外からの日差しは暖かくて欠伸が出そうだ。 ただでさえ精霊たちが働いて、真夏日とは思えない快適な室温にしているからね。 何となく耳かきを手にし、ごりごりと掃除をする。 しばらくそれを続けていると、じぃと少女から不思議そうに見上げられた。「あ、そういえば夢の世界に耳掃除は無いのか」「もちろん布で拭いたりはするけれど、よくも棒を入れるなんて恐ろしい事をできるわね」 興味津々かと思いきや、恐れられていたらしい。 まあ、耳の奥には鼓膜があるのだし、怖い部類に入ってもおかしくないか。 せめて恐怖心くらいは無くしてあげたいと思い、話しかけることにした。「耳かきというのは日本で生まれた習慣でね、指では届かないところを掃除できるんだよ」「ふうん……、耳って蒸れるから気持ちは少しだけ分かるわ」 ん、蒸れる? どういう意味だろうとマリーの耳を見つめると、なんとなく理由を察した。 笹穂のような長耳はエルフ族特有のもので、彼女の場合は後方へ向け、やや垂れたような形状をしている。すると犬や猫のように湿気はこもりやすく、こまめな掃除が必要なのかもしれない。 最近は日本びいきになりつつあるエルフなので、日本製であることを伝えると興味を持ってくれたようだ。「なら試してみない? 怖いなら僕がやってあげるから」「え、いいわそんなの……、掃除してもらうなんて恥ずかしいし。それに、痛いでしょう?」「ぜんぜん痛くは無いと思うよ。とはいえエルフの耳掃除なんて初めてだから、どうなのか分からないけど」 そう答えると、少女はほんの少し好奇心を覗かせる。 薄紫色の瞳を瞬かせ、すこしだけ恥ずかしげにコクンと頷いた。「いいわ、暇つぶしに体験してみても」「じゃあやってみようか。横になって欲しいから、そこのベッドに移ろう」 ぎこりと互いに椅子を引き、生まれて初めて、しかもエルフの耳かきをすることになった。 ぽふぽふと蒸しタオルを叩き、ベッドへ腰掛けるマリーへと近づいてゆく。もし長耳のせいで蒸れるなら耳穴掃除だけでは解決しないのではと思い、用意してみたのだ。 ぎっとベッドを鳴らして腰を落とすと、少女を招くことにした。「さあどうぞ、太ももを枕にしてくれるかな」「ええ、じゃあ失礼して……」 そう伝えるとマリーは少しだけ頬を赤くしつつ、ゆっくり横になる。 白いさらさらの髪、そして頭を僕の太ももの上へ乗せ、何度か位置を整える。髪をかきあげると透けるように真っ白いうなじが現れた。「じゃあ始めるけど、もし痛かったら言ってね」「怖いことを言わないでちょうだい。もし痛くなんてしたら、バニラアイスを買うことになると覚悟なさい」 はいはいと返事をし、さっそくエルフの耳掃除を始めることにした。 耳全体を蒸しタオルで包み、こしこしと拭いてゆく。溝にそって指を這わせ、痛くないようゆっくりと。「ひぃうーっ、くすぐったいのと気持ちいいの中間にいるわ!」 などと少女は感覚を教えてくれる。 まあマリーは分かりやすい表情をしているし、これなら気持ちの良い場所を掃除できるなと僕は安心した。 長耳は上部分の溝がもっとも深いため、根元から先まで丁寧に往復をする。 声のトーンが高まるのは、どうやら先端のほうが気持ちよいらしい。指に挟み、こしこし先端を揉むと少女は熱っぽい息を吐いた。「ふ、ううーー……っ。そこ、けっこう好きみたい」「蒸れやすい場所なのかな。エルフは耳が良さそうだけど、掃除は大変そうだね」 まあ、自分でやるより人に掃除されるほうが気持ちよかったりするからね。 なんとなく勘はつかんだので、耳穴から先端へ向けて蒸しタオルは前後する。白いタオルには汚れがつき、なんとなくこちらまでスッキリする思いだ。 ぐりぐりと耳穴そばの溝を掃除すると、短めのスカートの先にある太ももは揺れた。「あ、そこ、いいかもっ、しれないわ」「ちょうど汚れの溜まりやすい所だね。もう少し拭こうか」 こくりと少女から頷かれたので、耳先をつまんでから溝の掃除をしてゆく。 いつの間にやら少女は親指の腹を噛んでおり、とろんと眠そうな瞳をしていた。 では、そろそろ耳かきを始めようか。 棒を手に取り、日差しを耳穴へと当てて覗き込む。 すぐ近くの溝へと木製の耳かきを当てると、ぴくっとマリーは震えた。「あ、ちょっと怖いわね……。ん、ん、やあ、こすられて……」「危ないからあまり動かないようにね」 耳奥を掃除されるというのは初めての体感だったらしく、こするたびに肩を震わせ、そして指を噛む。 うーん、こうして見ると人の耳とあまり変わらない気がするな。といっても何度も人の耳を見たりしないけど。 ゆっくりと奥へ入れてゆくと……おお、あったあった、大物だ。 カリッと棒先へあたる感触に、僕は内心でのめりこんでしまう。確かめるよう何度か前後すると、カリッカリッと感触は伝わる。「う、なにか見つけられた感じがするわ!」「いやあ、気にしないで欲しいなあ。さあ、頭を動かさないようにね」 マリーはきちんとした耳掃除をしていない。 それはつまり、百年近く溜まり続けていたということか。それでも全体的に綺麗なんだけど、しかしこれはおそらく本物だ。 痛くならないよう気をつけ、カリッ、カリッと押し当てる。 ああ、これが取れたら気持ちいいだろうなー。 ごろっと取れたら最高だろうなー。などと僕は夢中になってしまう。 いつの間にやらマリーも同じ思いをしていたらしく、ひくひく太ももを震わせつつ耐えている。じっとりと肌は汗ばみ、どこかマリー特有の甘い匂いを覚えてしまう。 ――ごろり。「おっふぅ……」 ゴロッとこそげ落ちたその快感たるや、天にも昇るよう……というのは言いすぎか。 少女も気持ちよさそうに身もだえし、それから蕩けた瞳をこちらへ向けてきた。「いやぁ、取れたねー。見てごらん、こんなに大きいよ」「わ、大きい! けど、ちょっと恥ずかしいわ」 互いに鑑賞をしてスッキリすると、戦利品のようにティッシュへ包むことにした。「じゃあ、もし良かったら反対側を始めようか。嫌じゃない?」 そう尋ねると少女は返事代わりに体勢をひっくり返し、ぽすんと僕のお腹へ顔を押し付けてくる。 ぱたぱた揺れる足といい、どうやら楽しみにしているらしい。 赤くなった耳をつまむと、押し当てられた少女の鼻から「んふーー」と楽しげな息を伝えてくる。 ゆっくり傾きつつある午後の日差し。 そんな時間帯にエルフの長耳を綺麗にするというのは、なぜか贅沢な事のように感じられた。 …………。 このあと、エルフさんに沢山耳かきしてもらいました。