しとしとと降る雨が、ビニール傘を伝い落ちてゆく。 6月になると本格的に梅雨入りし、この東京都江東区にもしつこく降り続けていた。とはいえ、紫陽花の花をじいっと見つめる少女にとっては苦でもないらしい。 半袖シャツ、それに黒のスカートとどこか学生服に似た服装をし、背丈や顔立ちは15歳くらいだろうか。もっとも、日本人とかけ離れた容姿をしているので年齢は分かりづらい。 透き通るような肌。さらりと腰まで伸びる髪は、この空よりも白い。そしてアメシスト色の大きな瞳は、通り過ぎる誰もが妖精かと思うほど。 それ故にこの江東区……いや、日本において少女は浮いている。しかし人々の好奇な視線さえ、梅雨と同じくらい苦にならない顔つきだ。 それよりも、と少女は花壇を覗き込む。 目の前には先ほどの紫陽花があり、大きな花と葉をつけている。すっきりとした青、品のある紫と色調は株によって異なり、また同じ株でも色が混じる。それが不思議で少女――マリアーベルは見つめていた。 と、その興味は異なるところへ移ってしまう。 よじよじと進むかたつむり、そしてよく見れば足元にはカエルがいたのだ。雨宿りをしているのか、新緑色のカエルはじっと動かず、ぶくぶくと喉を膨らませている。「わあ……、かわいい。あなたはカエルね」 そっと囁きかけるとカエルはぶくぶくを止め、黒い瞳で少女を見上げてきた。彼が不思議そうな顔をしたのは、ひょっとしたら少女が半妖精のエルフ族だと見破ったかもしれない。東京で暮らしているけれど、彼女は少しだけ人と異なるのだ。 しゃがみこみ、じっと互いに見つめ合う。それが彼女らの挨拶だったらしく、そっと指を伸ばすと彼はぴょんと乗ってきた。ぺたぺたと歩み、小さな目でまた少女を見上げてくる。 と、そのときマリアーベルへ影が落ちた。 少女とカエルが見上げるとそこには一人の青年が立っている。髪も瞳も黒く、どこか眠そうな印象をした男だ。「やあ、お友達ができたのかい?」 顔つきと同じくらい柔らかい声が響き、少女はこくりと頷いた。 できたばかりのお友達を見せてあげると青年は眺め、そして足元にいた黒猫が「にう」と鳴く。