「よくぞいらっしゃいました」 マロウ邸の裏庭で主のマロウさんが出迎えてくれた。 そう、俺の最後のコネはマロウ商会だ――というか、コネがあるのは、ここしかない。「この度は無理なお願いをいたしまして、申し訳ございません」「いいえ、何をおっしゃいます、娘の命の恩人に報いねば商人の名が廃ります故。こちらが多大な御礼をしなければならないのに商品まで頂いてしまって……」「戦の支度金は、あくまで前借りでしたから――商人ならば、約束を守らねばなりません」「そう言っていただくと、助かりますが……」 マロウさんに、アリッサを紹介する。「この娘なんですがね。とても正直者で力は強く、良く働くのですが、口下手のせいか職が決まりませんで……」「おお、そうでしたか」 早速、彼女の働きっぷりを見てもらう。論より証拠だ。 マロウ邸の裏庭を少し歩いた所に、倉庫と荷物の積み下ろし場所がある。 そこで、アリッサのパワーのデモンストレーションを行う事になった。 彼女は、大の男でも数人がかりで運ぶ荷物を軽々と持ち上げて荷馬車へ積んでいく。「ほう! これは凄い力持ちだ」「獣人並ですね」 マロウ親子も驚くその圧巻のパワー――まさに人間起重機。 獣人は読み書きと計算は出来ないし、複雑な手順などは覚えられないが彼女は違う。「彼女は読み書きと簡単な計算も出来るんですよ。ただ、玉に瑕と言っちゃなんですが、非常に大飯ぐらいでして……」 アリッサは口下手なので、俺が彼女の説明をする羽目になっている。彼女は本番に弱いタイプだ。「3人分の力持ちは、3人分飯を食うというわけですな。よろしい、雇わせていただきましょう」「ありがとうございます。ほら、アリッサもお礼を言って」「あ、ありがとうございますだ!」 彼女は大柄な身体を小さくして、ぺこりとおじぎをした。「ああ、もう一つ。彼女は非常に力持ちなのですが、凄く臆病で戦い等には向きませんので、そこら辺を考慮してやって下さい」「お優しいのですね」 プリムラさんは、女達が寝泊まりしていた俺の家へ何回か訪れているから、彼女の事も少々知っている。 最初、女達と一緒に暮らしている事を知ったプリムラさんは不機嫌だったのだが、人助けの為だと理解してくれたようだ。「よ、よろしくお願いしますだ。お嬢様!」「プリムラでいいですよ」 アリッサはひたすら恐縮しまくっている。大丈夫かな? 彼女の心配をしていると、プリムラさんが俺に話しかけてきた。「ケンイチさん。人の心配をするよりも自分の心配をなされては?」「ああ、貴族の事ですか? 街の噂は聞いていますよ。なぁに、私がいなくなれば全てが解決するでしょう」「ケンイチさん! 街を出るおつもりなんですか?」「まぁ、そういう選択もあるって事です」「一度、領主様に謁見してお話を聞かれた方がよろしいのでは? ここの領主、アスクレピオス伯爵様は、そんなに悪い方ではありませんよ?」「それでも私が凄い魔導師だとバレて、徴発を命令されたら逆らえないのでしょう?」「た、確かにそうですが……」 マロウ親子には世話になったが、プリムラさんを助けた事で恩は返しただろう。 やはり、そろそろ限界だ。 マロウ邸を出て家に帰ると、アネモネに今後の事を聞いた。