「ノヴァ・バルテレモン……っ」 静かに、しかし大きな怒りを孕んで、奥歯をギリリと噛み締める女がいた。 ユカリだ。 彼女は密かに期待していたのだ。「人類最強」と呼ばれるあの将軍ならば、セカンドを楽しませることができるのではないかと。 裏切られた気分であった。 まさかあれほどに卑しい女だったとは。期待していた自分が馬鹿らしい……と、あの突然の宣言を聞いてしまっては、そう思わずにはいられなかったのだ。 とんだ伏兵、である。「なるほど、ですわ。ユカリ様のお怒りもわかりますが……わたくしは納得です」「納得だって?」 そんなユカリの様子を後ろから見ていたシャンパーニが呟くと、隣に座っていたエルが反応を示した。「ええ。ノヴァ闘神の異名、知ってますわよね?」「……あぁー……」 異名と聞いて何かに気付いたエルが、初めて「納得」という顔を見せる。 ノヴァ・バルテレモンが、裏でどう呼ばれているか。 それは――「――“終身栄誉処女”! 良い響きですねぇ~」 コスモスが躊躇いもせず口にした。 耳にした使用人たちは皆「やれやれ」という表情をしたが、しかし、ノヴァ闘神がその言葉通りの人物であったのだとも得心する。 曰く……彼女は「自分より強い男でなければ共にならない」というのだ。 そして、その噂を聞いた誰もがこう思わずにはいられなかった。「彼女は間違いなく一生処女である」と。 何故なら、彼女に勝てる者などこの世に存在するわけがないのだから。 ついそう思ってしまうほど、彼女は圧倒的だった。 事実、現在の二十六歳に至るまで、彼女は完全なる無敗。全ての試合を大差で勝ってきた。 ゆえに、終身処女であり、それは栄誉なことであると、人々は語る。 しかしながら、半年前のこと。 その条件に当てはまるかもしれない男が、たった一人だけ現れた。 そう、それは、人呼んで、世界一位の男――。