貨物室は最後に見た時とほとんど変わっていなかった。貨物室の荷物は他の部屋に置かれた物と異なり、万一を考え固定されている。うず高く積まれた木箱は健在で、崩れたりなどしていない。 慎重に中に入る。ぐるりと室内を見回すが、特に不審な点はない。外の音だろうか。「大丈夫、気の所為だったみたいだ――」 シトリーにそう伝えたその時、目の前に積まれた大きな木箱の蓋が音もなく開いた。 最初に見えたのは白いとんがりだった。 蓋を内側から開け、身を起こしたのは現れたのは狐の面を被った白無垢の子どもだった。その手には大きな油揚げが握られている。 その顔がこちらを向く。僕はただただ瞬きした。「…………?」 ……箸を使え、箸を……手掴みなんて、行儀が悪い。 狐面が僕を見ながら、のんきに油揚げを食む。僕は笑顔のまま箱に近づき、頭を軽く押し、箱の蓋をかぽんと閉めた。 大きく深呼吸をすると、箱を一息で持ち上げる。木箱なのでそれ自体にそれなりの重量はあるが、まるで何も入っていないかのような重さだ。 いや、事実、この箱は空っぽだ。何も入っていない箱なのだ。シトリーを振り返り、笑いかける。「………………さ、異常なし、と。荷物を運び出そうか。…………もしかしたら五箱じゃちょっと足りなかったのかもしれないな」 暑さのせいで幻を見たのかもしれない。さっさと運び出す物を運び出して街に戻るとしよう。 ストレスが溜まってるのかもしれない。甘くて冷たい飲み物でも飲んで、絨毯と遊ばなくては……。「い、生け捕りですか……クライさん、さすがです…………私には、真似できません」 何もなかったことにしようとしたのに、シトリーが若干引きつった表情で言った。どうしようこれ……。