「ご、ごごご、ごっ、んご、ごしゅっ……!?」 あっ、ごごご星人だ。初めて見た。「ごご主人様!? ど、どうしてこちらに!?」 俺とウィンフィルドが使用人用の豪邸に入ると、庭を歩いていたメイドの一人がこちらに気付くや否や口をあんぐりと開けながら驚愕の声をあげた。俺を珍獣か何かと思っているのだろうか?「イヴに用があるんだが……まあいいや、使用人がいっぱい集まってそうな場所ってどこだ?」 俺は使用人たちに軽く挨拶しようと思い、なんとなくそんなことを尋ねてみる。「はいっ。現在、しゅおっ、食堂にてっ、隊長クラスの休憩時間となっておりますわ! ごあ、ご案内、いたしますわ!」 メイドはピンと直立不動になって、舌を噛みつつもなんとか説明をやり遂げ、ロボットのようにぎこちなく動きながら食堂までの道を案内してくれた。 あまりに緊張しているのでいたたまれなくなる。俺は彼女の緊張をほぐそうと道すがら雑談に興じた。「名前は?」「ま、マリーナと申します。エス隊の、ふく、副隊長を務めておりますわっ」「へぇ~」 エス隊って何? と思った瞬間、ウィンフィルドが俺の耳元でこっそりと説明してくれた。何でもユカリが最初に連れてきた10人のメイドがそれぞれ隊長をやっている部隊のうちの一つらしい。それぞれ10人以上の隊員を持っているんだとか。え、じゃあ今メイドって10×10で100人以上いるわけ? こりゃまた随分と増えたな……と思ったが、この広すぎる我が家にはそれでも足りないくらいなのかもしれない。「マリーナ。緊張しない方法を教えてやろうか?」「そ、それはっ……も、申し訳ございません。わたわたく私、こ、これ、これほど緊張してしまうとはっ」「うわっ! すまん違うぞ、別に責めてるわけじゃない」 マリーナは今にも泣き出しそうな顔で謝ってきた。ブロンドの長髪につり目の“気の強そうなお嬢様”といった風の見た目とは裏腹に、随分と気の弱い子のようだ。「大抵のやつはな、普段と違った状況で全力は出せない。何かひと工夫しない限りは、だ」「……ひ、ひと工夫、ですか?」「そうだ。願掛け、自己暗示、ルーティーン。まあ人それぞれだな」 こればかりは自分に合った方法を探すよりない。「だがある時俺は気が付いた。平常心でいようとか、持てる力を出し切ろうとか、そういう“それっぽいあれこれ”を考えること自体が雑念なのだと。平常心、集中力、コンディション。心技体を完全に整え、それらを凌駕するためには、ひとえに没入することだ」「没入……?」「ああ。要は覚悟だ。それ専門のバカになる覚悟だ。よだれを垂らそうがションベン垂れようが止めない覚悟だ。もう二度と元に戻れなくなるくらい没入しろ。全身全霊を注ぎ込め。そしたら緊張なんてしない」 マリーナは目を丸くして感心した様子で俺の話を聞いていた。そこへ若干呆れ顔のウィンフィルドがツッコミを入れる。「セカンドさん、それ、ここぞって時じゃないと、無理、だよね?」「当然だ。日常でそんなことやってたら疲れて話にならん」「だよねー」「…………?」 あれ? という顔をするマリーナ。そしてだんだんと気が付いてくる。「私もしかしてからかわれた?」と。「からかって、ないと思う、よ。でも、緊張は、ほぐれたんじゃない?」 ウィンフィルドが優しく微笑みながらフォローをする。マリーナはハッとした顔をしてから「ありがとうございますわ」と恭しくお辞儀をした。「あそこが食堂だな」 廊下の先から美味しそうな匂いが漂ってくる。それと、賑やかな声も。こういう食堂の雰囲気って何か良いよな。メシ食ったばっかりだけどまた食いたくなってくる。「ご、ご主人様がいらっしゃいましたっ!」 到着の寸前でマリーナが先行して食堂全体に報告する。 一瞬の静寂。 ――直後、食堂は騒然となった。